健康診断の結果表を見て、愛猫の数値に「異常あり」のマークがついていて、心臓が一瞬止まりそうになった経験はありませんか?
「腎臓の項目『クレアチニン』が基準値より高い…!」
結論から言うと、数値が高くても「体質的なもの(筋肉量など)」が原因であるケースもあります。逆に、基準値の中に収まっていても安心できない項目もあります。
愛猫を守るためには、飼い主自身が「結果表の数字を”読める”ようになること」が非常に重要です。
この記事では、獣医学の論文や国際ガイドラインをもとに、猫の血液検査で見落とされがちな数値を、飼い主目線でわかりやすく解説します。
「この検査は何のためにあるのか」を理解する”地図“としてご活用ください。
⚠️ 注意事項
この記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の診断や治療方針は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。この記事の数値は、記事末尾の出典に基づいています。数字の出どころが確認できないものは載せていません。
1. なぜ猫の血液検査は「早期発見」が重要なのか?
猫は、体調不良を隠す天才です。
症状が出る前に体の中の変化をとらえる健康診断は、愛猫の命を守る重要なツールになります。
猫の死因で最も多いのは「泌尿器の病気」
日本国内の40の動物病院が協力した調査(2020年4月〜2021年8月、犬猫2,133頭)では、猫の死亡原因は泌尿器疾患が29.4%で最多、次いで腫瘍20.3%、循環器疾患11.8%と報告されています。
ただし「泌尿器疾患」は、慢性腎臓病だけでなく尿路閉塞や膀胱の病気なども含む大きなくくりです。この調査から「慢性腎臓病が死因1位」と言い切ることはできません。
もう少し細かく分けた例として、イギリスの一次診療施設の記録を分析した研究があります。この研究では猫全体の死因は外傷が12.2%で1位、腎疾患が12.1%で2位でしたが、5歳以上で亡くなった猫(2,793頭)に限ると腎疾患が13.6%で1位でした。若い猫の交通事故などを除くと、腎臓が前に出てくるということです。
腎臓は「2段階」で沈黙する
腎臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるのは、機能が失われても症状が出るまでに大きな余裕があるためです。ここには2つの段階があり、混同されがちなので分けて説明します。
| 段階 | 失われた機能ネフロンの割合 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 第1段階 | 約3分の2(約67%) | 尿を濃縮できなくなり、水をよく飲む・尿が増える(多飲多尿)が現れ始める |
| 第2段階 | 約4分の3(約75%) | 血液検査でクレアチニンやBUNが上がる(腎性高窒素血症) |
つまり、血液検査の数字が動くより先に、飲水量と尿の量が変わっている可能性があります。「よく水を飲むようになった」「トイレの砂の塊が大きくなった」という変化は、血液検査より早いサインになりうるということです。
ただし、多飲多尿は腎臓以外の病気(糖尿病、甲状腺機能亢進症など)でも起こります。「水をよく飲む=腎臓」と決めつけず、気づいたら記録して受診してください。
飲水量そのものが心配になった方は、こちらもあわせてどうぞ。
参考:猫のドライフードだけは危険?水分と腎臓・尿路の関係を論文で徹底解説
では、健康診断はどのくらいの頻度で受ければよいのでしょうか。年齢によって推奨される間隔が変わります。
参考:猫の健康診断はいつから受ける?年齢別の頻度・検査内容・費用の目安【体験談あり】
2. 猫の血液検査の基本!「2つの検査」の違い
細かい数値を見る前に、血液検査の全体像を押さえておきましょう。
猫の血液検査は、大きく以下の「2つの検査」の組み合わせでできています。
| 検査の種類 | 主な目的 | 調べるもの |
|---|---|---|
| CBC (全血球計算) | 貧血、炎症、感染のサインを見つける | 赤血球、白血球、血小板などの 「細胞成分」 |
| 血液生化学検査 | 肝臓、腎臓、膵臓などの「臓器の機能」 を評価する | 血液中の酵素やタンパク質の量 |
この2つを組み合わせて、体のどこかに異常が隠れていないかを「ふるいにかける」のが健康診断の目的です。血液検査だけで診断が確定することはほとんどありません。尿検査、画像検査、血圧測定などと組み合わせて、はじめて意味を持ちます。
3. 【腎臓の数値】新指標「SDMA」とクレアチニンの関係
猫の宿命とも言える慢性腎臓病。
その早期発見を大きく変えたのが、「SDMA(対称性ジメチルアルギニン)」という比較的新しい検査項目です。
クレアチニンとSDMAの比較
| 項目 | 特徴と弱点 | 異常が出始めるタイミング |
|---|---|---|
| クレアチニン | 筋肉量の影響を受けやすい。 痩せた高齢猫だと数値が低く出がち | 機能ネフロンの約75%が失われてから |
| SDMA | 筋肉量の影響を受けにくい。 痩せた猫でも評価しやすい | 基準上限の14 µg/dLは、健康な猫のGFR中央値から約24%の低下に相当 |
かつてはクレアチニンが主流でしたが、「数値が上がったときには手遅れ寸前」という弱点がありました。SDMAは、より早い段階で動き始めるのが最大の強みです。
⚠️ よく見かける「SDMAは腎機能が40%低下した時点で上がる」について
この「40%」という数字は、獣医学論文ではなく検査キットメーカー(IDEXX社)の資料に出てくる表現です。同社の資料は犬と猫の複数の研究をまとめた平均として「40%」を挙げており、同じ文の中で「25%という早さで検出することもある」とも書いています。
猫を対象にした査読論文(Hall ら 2014)が示している値は約24%です。この記事では、メーカーの平均値ではなく、猫の論文の数字を採用しています。
「クレアチニンより17か月早い」の正しい読み方
SDMAの早期発見能力を語るとき、よく引用されるのが「クレアチニンより平均17か月早く上昇した」という報告です。これは Hall ら(2014)による、慢性腎臓病の猫21頭を対象とした後ろ向き研究の結果です。
ただし、正確にはこう書かれています。
「SDMAは21頭中17頭でクレアチニンより先に上昇した(平均17.0か月、範囲1.5〜48か月)」
Hall JA, et al. J Vet Intern Med. 2014;28(6):1676-1683.(筆者訳)
- 全頭ではありません。21頭中17頭で、残り4頭では先行しませんでした
- 範囲が非常に広いです。1.5か月から48か月まで、猫によって10倍以上の開きがあります
さらに、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS:International Renal Interest Society)は、この17か月という数字に注釈をつけています。
「この猫の研究で、クレアチニン濃度1.6 mg/dL超を異常とみなしていたなら、クレアチニンとSDMAはほぼ同時期にこれらの猫の腎性高窒素血症を検出していただろう」
IRIS「Reassessment of “normal” values in dogs and cats」(筆者訳)
つまり「17か月」という差は、比較に使ったクレアチニンの基準値をどこに置いたかにも左右されます。SDMAが有用な検査であることは変わりませんが、「17か月早い」という数字だけを魔法のように受け取るのは正確ではありません。
腎臓病そのものの経過やステージ分類、治療については別記事で詳しくまとめています。
参考:猫の慢性腎臓病とは?初期症状・検査・新薬AIMまで解説
【体験談】我が家の「ムキムキ猫」とクレアチニンの関係
我が家の先住猫は、筋肉質な「ムキムキ体質」。
実は、クレアチニンは筋肉に含まれる成分の代謝産物であるため、筋肉質な猫ほど数値が高めに出やすいという特徴があります。
我が家の先住猫も1歳の頃から毎年クレアチニンが高めに出ますが、獣医師からは「筋肉量による体質的なものでしょう」と説明されています。筋肉量の影響を受けにくいSDMAを併用することで、こうした「体質なのか、病気なのか」の判断がしやすくなります。
逆のパターンもあります。痩せて筋肉が落ちた高齢猫では、腎機能が落ちていてもクレアチニンが基準値内に収まってしまうことがあります。「クレアチニンが正常だから腎臓は大丈夫」とは言い切れないのは、このためです。
SDMAの注意点(万能ではない)
SDMAも完璧ではありません。「本当は腎臓病でないのに陽性と出てしまう(偽陽性)」がクレアチニンより多いことが、複数の研究で報告されています。
| 研究 | SDMAの特異度 | クレアチニンの特異度 |
|---|---|---|
| Hall ら 2014(猫) | 91% | 100% |
| Brans ら 2021(猫) | 75〜76% | 94〜96% |
そのため、IRISは「クレアチニンとSDMAの両方を使うこと」を推奨しています。
「IRIS理事会は、腎臓の排泄機能を評価する能力を高めるために、血清クレアチニンとSDMAの両方を使うことを推奨する。この2つの代替指標は互いを補完し合う」
IRIS Guidelines(筆者訳)
また、SDMAだけが高くてほかに腎臓の異常を示す所見がない場合、IRISは「2〜3か月にわたって持続しているかを確認すること」を求めています。1回の数値だけで一喜一憂せず、期間をあけて測り直すことが大切です。
4. 【甲状腺の数値】「食べてるのに痩せる」はT4のサインかも
「最近やたらと食欲があるのに、なぜか痩せてきた」
もしそう感じているなら、「甲状腺機能亢進症」の要注意サインかもしれません。
アメリカ猫獣医師協会(AAFP)のガイドラインによると、この病気は世界の高齢猫の1.5〜11.4%で診断されており、アメリカでは中年齢以降の猫で最も多い内分泌(ホルモン)の病気とされています。同ガイドラインは、アメリカでの有病率を「10歳を超える猫の最大10%」とも記しています。
そのため、高齢猫の健診では「血清T4(甲状腺ホルモン)」の測定が日常的に組み込まれるようになっています。
T4が「基準値内」でも否定できない
この項目で最も知っておいてほしいのは、T4が正常範囲でも甲状腺機能亢進症を否定できないということです。
- 甲状腺機能亢進症の猫の約10%は、総T4(TT4)が基準範囲内に収まると報告されています(Merck Veterinary Manual は5〜10%としています)
- 早期・軽症のケースに限ると、その割合は約40%まで上がります
- ある専門医の連続100症例では、T4が「正常」だった8頭は全頭が基準範囲の上位3分の1に入っていました
さらに、健康な猫でも加齢とともにT4は下がる傾向があることが報告されています。7歳以上の猫206頭を対象にした2023年の研究では、7〜10歳群のT4基準範囲の上限が39.4 nmol/Lだったのに対し、10歳超の群では36.1 nmol/Lでした。この研究は次のように述べています。
「全年齢の猫向けの一般的な基準範囲を高齢猫の結果の解釈に当てはめると、(上限に近い)基準範囲内の値が、その年齢群にとってはすでに軽度に上昇した値である可能性がある」
Mortier F, et al. J Feline Med Surg. 2023;25(11).(筆者訳)
つまり高齢猫で「基準値内だけど上限ぎりぎり」という結果は、そのまま流さないほうがよいということです。症状(食欲があるのに痩せる、多飲多尿、活動性の増加、嘔吐、鳴き声が増えるなど)とあわせて、獣医師に相談してください。
体重が落ちてきたとき、それが病気なのか単なる痩せなのかを見分ける手がかりは、こちらでまとめています。
参考:猫の「ぽっちゃり」は肥満?手で見分ける方法と安全なダイエットの進め方
肝臓の数値が上がっていたら、甲状腺も疑う
甲状腺機能亢進症の猫では、肝酵素が上がることが少なくありません。放射性ヨウ素治療のために来院した甲状腺機能亢進症の猫217頭を調べた2022年の研究では、以下のように報告されています。
- ALT上昇:123/217頭(56.7%)
- ALP上昇:53/217頭(24.4%)
- AST上昇:29/217頭(15.6%)
- 治療に成功した猫では、短期・長期のいずれの経過観察時点でも肝酵素は基準範囲内に戻っていた
「原因のはっきりしない肝酵素の上昇」があるとき、その裏に甲状腺の病気が隠れている可能性がある、ということです。
追加検査(fT4・TSH)の注意点
T4だけで判断がつかない場合、遊離T4(fT4)やTSHといった追加検査が行われます。ただし、これらは単独では診断に使えません。
| 検査 | 注意点 |
|---|---|
| fT4(遊離T4) | 甲状腺の病気ではない病気の猫の最大20%で偽陽性になると報告されています。Merck Veterinary Manual は「fT4はスクリーニング検査としては使わない」と明記しています |
| TSH | 2023年のAAHAガイドラインは「TSHは甲状腺機能亢進症の初期診断としては感度が高くなく、T4またはfT4の上昇と組み合わせて使わなければならない」としています |
AAFPガイドラインは、T4が基準範囲の上半分にあり、かつfT4が上昇している場合に甲状腺機能亢進症を支持する、という組み合わせでの判断を示しています。「fT4が高い=甲状腺の病気」ではありません。
5. 【肝臓・血糖値・CBC】その他の見逃せない数値
肝酵素(ALT・AST・ALP)──猫のALPは「小さな上昇」に意味がある
肝臓もダメージを受けて症状が出にくい臓器です。
- ALT・ASTが高い: 肝細胞の障害の疑い
- ALPが高い: 肝臓や胆道系の異常の疑い(※成長期の子猫は骨の成長により生理的に高く出ます)
ここで押さえておきたいのが、猫のALPは犬とは性質が違うということです。
| 猫 | 犬 | |
|---|---|---|
| 肝型ALPの血中半減期 | 約6時間 | 約66時間 |
| 肝疾患時の上昇幅 | 正常上限の2〜3倍程度 | 正常上限の4〜5倍超が多い |
| ステロイドで誘導されるALP | まれ | あり(犬に固有のアイソザイム) |
猫は肝細胞内のALPの量が少なく、血中に出ても6時間程度で消えていきます。そのため猫では、ALPのわずかな上昇でも無視すべきではないと考える臨床家が多いとされています。
ただし、これは「エビデンスで確立した基準」ではなく臨床家の考え方として紹介されているものです。そしてもう一つ重要な注意があります。
ALPが上がっている=肝臓が悪い、とは限りません
Merck Veterinary Manual は、猫のALPは糖尿病・甲状腺機能亢進症・膵炎でも上昇しうると記しています。前章で触れたとおり、甲状腺機能亢進症の猫の24.4%でALPが上がっていたという報告もあります。
また、猫のALPは「特異度は高いが感度は低い」指標とされます。上がっていれば意味がある一方で、正常でも肝胆道の病気を否定できないということです。
子猫でALPが高く出るのは、骨をつくる働き(骨型ALP)によるものです。成長期の動物では成体の2〜10倍になることがあり、Merck Veterinary Manual は「成長中の子猫では、骨型ALPの上昇が肝胆道疾患のように見えることがある」と記しています。子猫の結果表でALPだけが高い場合、まず月齢を確認してください。
血糖値(Glu):1回の高値にだまされない
血糖値は糖尿病の指標ですが、猫は病院での緊張やストレスだけで一時的に血糖値が上がる動物です。どのくらい上がるかは、状況によってかなり違います。
- 健康な成猫20頭に5分間のシャワーを行った実験では、血糖値は平均83 mg/dLから平均ピーク162 mg/dLまで上昇し、20頭中12頭では90分以内に元に戻りました
- 臨床現場では300〜400 mg/dL程度まで上がることもあるとされています
- 猫の腎糖閾(尿に糖が出はじめる血糖値)は280〜290 mg/dLとされ、ストレスだけで一時的に尿糖が出ることもあります
上の実験では、猫が暴れた程度と血糖値の上昇が強く関連していました。論文自体が「採血時のもがきを最小限にする丁寧な保定が、ストレス性高血糖を減らしうる」と結論づけています。おとなしく採血できるかどうかは、数値そのものに影響するということです。
フルクトサミン:反映するのは「過去1〜2週間」
1回の高血糖が本物かを見分けるために使われるのが「フルクトサミン」です。よく「過去2〜3週間の平均血糖がわかる」と説明されますが、ガイドラインの記述はもっと短い期間を示しています。
| 出典 | 反映する期間 |
|---|---|
| AAHA糖尿病管理ガイドライン(2018) | 過去1〜2週間 |
| ISFMコンセンサスガイドライン(2015) | およそ過去1週間 |
フルクトサミンはストレス性高血糖と糖尿病の区別に役立ちますが、万能ではありません。
- 糖尿病ではないが体調の悪い猫でも、上昇することがあります(偽陽性)
- 発症したばかり、または軽症の糖尿病では、上がらないことがあります(偽陰性)
- ストレス性高血糖でも、その大きさと持続時間によっては影響を受けうるとされています
CBC(血球検査):もう一つの体のサイン
- 赤血球数(RBC)関連が低い: 貧血
- 白血球数(WBC): 増加なら感染症や炎症、減少ならウイルス感染などの疑い
- 血小板数(PLT): 低いと出血しやすい状態
「赤血球が高い=脱水」と説明されることがありますが、これは単純化しすぎです。脱水(血液が濃くなることによる見かけの上昇)が最も多い原因ではあるものの、ほかにも次のような理由があります。
- 恐怖や興奮による脾臓の収縮──脾臓には全赤血球の最大30%が蓄えられており、これが一気に放出されると一時的に数値が上がります。血糖値と同じく、「病院で緊張した」だけで動く項目です
- 心疾患や呼吸器疾患による低酸素(体が赤血球を増やして補おうとする)
- 腎臓などの腫瘍によるエリスロポエチン(赤血球をつくらせるホルモン)の産生
- 真性多血症、甲状腺機能亢進症、先端巨大症
脱水による見かけの上昇では、総蛋白やアルブミンも一緒に上がる傾向があります。獣医師はこうした項目を組み合わせて区別しています。
6. 【最重要】数値は「1回きり」ではなく「変化の向き」を見る
ここまで様々な数値をご紹介しましたが、すべてにおいて共通する大原則があります。
それは「1回の測定結果だけで判断しないこと」です。
- 測定機器や検査会社によって基準値は多少異なります
- 猫は緊張やストレスで数値が変動しやすい動物です(特に血糖値、白血球、赤血球)
- 脱水など、状態が安定していないと正しく評価できない項目があります
- 基準範囲は「全年齢の猫」でつくられていることが多く、高齢猫では上限付近の値の意味が変わることがあります(T4がその例です)
- 継続して測り、変化の向きを見る
基準値内であっても、「毎年じわじわと上がっている」なら異常のサインかもしれません。 - 猫が安定した状態で採血する
脱水状態や極度のストレス下では、正しい数値が出ない項目があります。IRISも「脱水がなく状態が安定している時に、少なくとも2回測定する」ことを原則としています。 - 異常値が出たら追加検査をする
尿検査、超音波検査、血圧測定などを組み合わせることで、初めて正確な診断が下ります。
値が高めであること自体よりも、「毎年変わらず高め(体質)」なのか「年々じわじわ上がっている(病気の進行)」のかを把握することが決定的に重要です。そのためには、過去の結果表が手元に残っていることが前提になります。
では、どう残しておけばいいのでしょうか。
参考:猫のお薬手帳は必要?病院記録の残し方と実体験からわかる重要性【保存版】
また、第1章で触れたとおり、多飲多尿は血液検査より早く現れることがあります。飲水量やトイレの回数を自動で記録する方法もあります。
参考:Catlog Boardとは?猫の健康管理を「見える化」するスマートデバイス徹底解説
7. よくある質問(FAQ)
Q1. クレアチニンが基準値より高いと言われました。腎臓病でしょうか?
必ずしもそうとは限りません。筋肉質な猫では体質的に高く出ることがあります。より正確に評価するために、筋肉量の影響を受けにくいSDMAや尿検査などを併せて行い、獣医師に総合的に判断してもらいましょう。IRISも、脱水がなく状態が安定している時に少なくとも2回測定することを原則としています。
Q2. SDMAだけが高いと言われました。どう考えればいいですか?
SDMAは腎機能低下を見つける力(感度)が高い一方で、腎臓病でない猫を陽性としてしまう偽陽性がクレアチニンより多いことが報告されています。ほかに腎臓の異常を示す所見がなくSDMAだけが高い場合、IRISは2〜3か月にわたって持続するかを確認することを求めています。期間をあけての再検査について、かかりつけ医に相談してください。
Q3. 「食欲はあるのに痩せてきた」。すぐ病院に行くべき?
早めに獣医師に相談することをおすすめします。中高齢の猫に多い「甲状腺機能亢進症」の典型的なサインの可能性があります。なお、T4が基準範囲内でも否定はできません(早期・軽症例では約40%が基準範囲内という報告があります)。症状が続くようなら、期間をあけての再検査や追加検査を相談してください。
Q4. 1回の検査で血糖値が高いと言われました。糖尿病ですか?
猫は通院のストレスだけでも血糖値が上がりやすい動物です。1回の結果だけで糖尿病と診断されることは少なく、過去1〜2週間の血糖を反映するフルクトサミンなどと組み合わせて判断されます。ただしフルクトサミンにも限界があり、体調の悪い猫で上がったり、発症初期で上がらなかったりすることがあります。
Q5. 「SDMAは腎機能が40%低下した時点で上がる」と読んだのですが、本当ですか?
この「40%」は検査キットメーカーの資料に由来する数字で、犬と猫の複数の研究をまとめた平均として示されています。猫を対象にした査読論文(Hall ら 2014)が示しているのは、SDMAの基準上限14 µg/dLが健康な猫のGFR中央値から約24%の低下に相当する、という値です。メーカー資料自体も同じ文の中で「25%という早さで検出することもある」と書いており、こちらは論文の値と整合します。
Q6. 数値が毎年少しずつ上がっています。心配したほうがいい?
「変化の向き」に気づけたのは大きな前進です。基準値内であっても、数年かけて数値が上昇している場合は注意が必要なケースがあります。特に高齢猫では、全年齢向けの基準範囲では上限付近の値がすでに異常を意味していることもあります。過去のデータを持って獣医師に相談してください。
おわりに──数字を”読める”ことは、愛猫を守る力になる
猫の健康診断は、病気を「症状が出る前」に見つけるための強力なツールです。SDMAやT4といった検査項目のおかげで、私たちはより早く愛猫のSOSに気づけるようになりました。
ただし、この記事で繰り返し見てきたとおり、どの検査にも得意なことと苦手なことがあります。SDMAは早いけれど偽陽性が多い。クレアチニンは確実だけれど遅い。T4は正常でも否定できない。フルクトサミンは万能ではない。だからこそ、1つの数字ではなく、複数の項目と、時間の流れで見ることが必要になります。
愛猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。
だからこそ、数字を読み解き、変化に気づける飼い主さんこそが、彼らのいちばんの味方なのです。
出典・参考文献
- Hall JA, Yerramilli M, Obare E, Yerramilli M, Jewell DE. Comparison of serum concentrations of symmetric dimethylarginine and creatinine as kidney function biomarkers in cats with chronic kidney disease. J Vet Intern Med. 2014;28(6):1676-1683. doi:10.1111/jvim.12445. PMID: 25231385. PMCID: PMC4895610
→ SDMAの基準上限14 µg/dLがGFR中央値から約24%の低下に相当すること(原文「Setting the upper limit of the normal reference interval for SDMA at 14 μg/dL corresponded to a GFR of 1.47 mL/min/kg, which represents an approximately 24% decrease from median GFR」)、21頭中17頭でSDMAが先行し平均17.0か月・範囲1.5〜48か月であったこと、SDMAとクレアチニンの感度・特異度(100%/91% と 17%/100%)の根拠として使用 - Brans M, Daminet S, Mortier F, Duchateau L, Lefebvre HP, Paepe D. Plasma symmetric dimethylarginine and creatinine concentrations and glomerular filtration rate in cats with normal and decreased renal function. J Vet Intern Med. 2021;35(1):303-311. doi:10.1111/jvim.15975. PMID: 33274800
→ SDMAの特異度75〜76%に対しクレアチニンが94〜96%であったこと(原文「Creatinine had higher specificity (94%-96%) than SDMAplasma (75%-76%)」)の根拠として使用 - International Renal Interest Society (IRIS). IRIS Guidelines. https://www.iris-kidney.com/iris-guidelines-1
→ クレアチニンとSDMAの両方を使うことを推奨する記述(原文「The IRIS Board recommends using both serum creatinine and SDMA to enhance our ability to evaluate renal excretory function. These two surrogate markers are complimentary to each other」)の根拠として使用 - International Renal Interest Society (IRIS). Reassessment of “normal” values in dogs and cats. https://www.iris-kidney.com/reassessment-of-normal-values-in-dogs-and-cats
→ 「17か月早い」への留保(原文「if a creatinine concentration of > 1.6 mg/dl had been considered abnormal in the feline study, both creatinine and SDMA would have identified renal azotemia in these cats at nearly the same time」)、およびSDMA単独高値の場合に2〜3か月の持続を確認すべきとする記述の根拠として使用 - International Renal Interest Society (IRIS). IRIS Staging of CKD (modified 2026). https://www.iris-kidney.com/iris-guidelines-1
→ 脱水がなく状態が安定している時に少なくとも2回測定するという原則(原文「assessed on at least two occasions in a hydrated, stable patient」)の根拠として使用 - IDEXX Laboratories. SDMA Testing for Cats and Dogs. https://www.idexx.com/en/veterinary/reference-laboratories/sdma/
→ 「SDMAは腎機能が40%低下した時点で上昇する」という広く流布した数字が、査読論文ではなく検査キットメーカーの資料に由来すること、および同じ資料が「as little as 25%」とも記していることを示す根拠として使用(メーカー資料であることを本文中に明示しています) - Van Vertloo L. Renal Dysfunction in Dogs and Cats. Merck Veterinary Manual. https://www.merckvetmanual.com/urinary-system/noninfectious-diseases-of-the-urinary-system-in-small-animals/renal-dysfunction-in-dogs-and-cats
→ 多飲多尿が現れるのは機能ネフロンの約3分の2が失われてから(原文「polydipsia and polyuria, which are not evident until approximately two-thirds of the nephrons are lost」)、腎性高窒素血症が現れるのは約75%が失われてから(原文「Renal azotemia develops when there is a loss of approximately 75% of functioning nephrons」)の根拠として使用 - 井上舞, 杉浦勝明. 動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析. 日本獣医師会雑誌. 2022;75(6):e128-e133. doi:10.12935/jvma.75.e128
→ 日本の猫の死亡原因が泌尿器疾患29.4%・腫瘍20.3%・循環器疾患11.8%の順であったことの根拠として使用 - O’Neill DG, Church DB, McGreevy PD, Thomson PC, Brodbelt DC. Longevity and mortality of cats attending primary care veterinary practices in England. J Feline Med Surg. 2015;17(2):125-133. doi:10.1177/1098612X14536176
→ イギリスの一次診療データで猫全体では外傷12.2%・腎疾患12.1%の順、5歳以上で死亡した猫2,793頭では腎疾患が13.6%で最多であったことの根拠として使用 - Carney HC, Ward CR, Bailey SJ, Bruyette D, Dennis S, Ferguson D, Hinc A, Rucinsky AR. 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. J Feline Med Surg. 2016;18(5):400-416. doi:10.1177/1098612X16643252
→ 世界の高齢猫の1.5〜11.4%で診断されること(原文「the disease is now diagnosed in 1.5–11.4% of older cats around the world」)、アメリカでは中年齢以降の猫で最も多い内分泌疾患であり10歳超で最大10%であること(原文「FHT is the most common endocrine disorder in middle-aged or older cats in the US, where its prevalence is up to 10% of cats older than 10 years」)、T4が基準範囲内の症例類型が存在すること、T4とfT4の組み合わせで判断することの根拠として使用 - Peterson ME. More than just T4: diagnostic testing for hyperthyroidism in cats. J Feline Med Surg. 2013;15(9):765-777. doi:10.1177/1098612X13500426
→ 甲状腺機能亢進症の猫の約10%(早期・軽症例では40%)でT4が基準範囲内に収まること(原文「approximately 10% of all hyperthyroid cats (and 40% of cats with early or mild hyperthyroidism) have serum T4 within the reference interval limits」)、連続100症例中T4が正常だった8頭が全頭基準範囲の上位3分の1にあったこと、fT4が病気の猫の最大20%で偽陽性となること(原文「the test specificity for free T4 is poor, with up to 20% of sick (and some clinically normal) euthyroid cats having false-positive free T4 results」)の根拠として使用 - Mortier F, van Leeuwenberg R, Daminet S, Paepe D. Determination of age-specific reference intervals for selected serum and urinary biomarkers in elderly cats. J Feline Med Surg. 2023;25(11):1098612X231207492. doi:10.1177/1098612X231207492. PMID: 37991462
→ 高齢猫でT4が加齢とともに低下すること、年齢別基準範囲の上限(7〜10歳 39.4 nmol/L、10歳超 36.1 nmol/L)、および全年齢向け基準範囲を高齢猫に当てはめると上限付近の値がすでに軽度上昇を意味しうるという指摘の根拠として使用 - Campbell J, Chapman P, Klag A. The Prevalence, Magnitude, and Reversibility of Elevated Liver Enzyme Activities in Hyperthyroid Cats Presenting for Iodine-131 Treatment. Front Vet Sci. 2022;9:830287. doi:10.3389/fvets.2022.830287
→ 甲状腺機能亢進症の猫217頭でALT上昇56.7%・ALP上昇24.4%・AST上昇15.6%であったこと、治療成功後に肝酵素が基準範囲内に戻ったことの根拠として使用 - 2023 AAHA Selected Endocrinopathies of Dogs and Cats Guidelines. American Animal Hospital Association. https://www.aaha.org/resources/2023-aaha-selected-endocrinopathies-of-dogs-and-cats-guidelines/
→ TSHが初期診断としては感度が高くなくT4またはfT4の上昇と組み合わせる必要があること(原文「TSH levels are not sensitive for initial diagnosis of hyperthyroidism and must be used in conjunction with elevated T4 or fT4 levels」)の根拠として使用 - Alkaline phosphatase. eClinPath, Cornell University College of Veterinary Medicine. https://eclinpath.com/chemistry/liver/cholestasis/alkaline-phosphatase/
→ 猫の肝型ALPの半減期6時間・犬の肝型66時間、ステロイド誘導型ALPが犬に固有であること、猫では肝細胞内のALP量が少なく半減期が短いためわずかな上昇も無視すべきでないと多くの臨床家が考えていること(原文「makes many clinicians feel small changes in ALP activity should not be ignored in cats」)、成長期の動物で骨型ALPにより成体の2〜10倍になりうることの根拠として使用。大学の教育リソースであり査読論文ではありません - Enzyme Activity in Hepatic Disease in Small Animals. Merck Veterinary Manual. https://www.merckvetmanual.com/digestive-system/laboratory-analyses-and-imaging-in-hepatic-disease-in-small-animals/enzyme-activity-in-hepatic-disease-in-small-animals
→ 猫の肝疾患時のALP上昇が正常の2〜3倍、犬が4〜5倍超であること(原文「The comparably small magnitudes of ALP activity in cats with liver disease (2- to 3-fold normal) relative to dogs (usually > 4- to 5-fold)」)、猫のALPが糖尿病・甲状腺機能亢進症・膵炎でも上昇しうること、成長中の子猫の骨型ALP上昇が肝胆道疾患のように見えうることの根拠として使用 - Rand JS, Kinnaird E, Baglioni A, Blackshaw J, Priest J. Acute Stress Hyperglycemia in Cats Is Associated with Struggling and Increased Concentrations of Lactate and Norepinephrine. J Vet Intern Med. 2002;16(2):123-132. doi:10.1111/j.1939-1676.2002.tb02343.x
→ 健康な成猫20頭で血糖値がベースライン平均83 mg/dLから平均ピーク162 mg/dLまで上昇し20頭中12頭が90分以内に正常化したこと、もがきと高血糖の関連、丁寧な保定がストレス性高血糖を減らしうるという結論の根拠として使用 - Glucose. eClinPath, Cornell University College of Veterinary Medicine. https://eclinpath.com/chemistry/energy-metabolism/glucose/
→ 猫のストレス性高血糖が300〜400 mg/dL程度に達しうること、猫の腎糖閾が280〜290 mg/dLでストレスにより一時的な尿糖が生じうることの根拠として使用。大学の教育リソースであり査読論文ではありません - 2018 AAHA Diabetes Management Guidelines for Dogs and Cats. American Animal Hospital Association. https://www.aaha.org/resources/2018-aaha-diabetes-management-guideline-for-dogs-and-cats/glycosylated-proteins/
→ フルクトサミンが過去1〜2週間の血糖コントロールを反映すること(原文「it reflects glycemic control over the previous 1–2 wk」)、およびストレス性高血糖との区別に使えるが体調の悪い非糖尿病猫でも上昇しうること(原文「Fructosamine may be elevated in sick, hyperglycemic, but nondiabetic cats」)の根拠として使用 - Sparkes AH, Cannon M, Church D, Fleeman L, Harvey A, Hoenig M, Peterson ME, Reusch CE, Taylor S, Rosenberg D. ISFM Consensus Guidelines on the Practical Management of Diabetes Mellitus in Cats. J Feline Med Surg. 2015;17(3):235-250. doi:10.1177/1098612X15571880
→ フルクトサミンがおよそ過去1週間の平均血糖を反映すること、短期のストレス性高血糖ではその大きさと持続時間によって影響を受けない場合があること、発症したばかりや軽症の糖尿病では上昇しない場合があることの根拠として使用 - Erythrocytosis (Polycythemia) in Animals. Merck Veterinary Manual. https://www.merckvetmanual.com/circulatory-system/erythrocytosis-polycythemia/erythrocytosis-polycythemia-in-animals
→ 赤血球増加の原因として脱水による血液濃縮、恐怖や興奮による脾臓収縮、低酸素、エリスロポエチン産生腫瘍、真性多血症があること、相対的増加では総蛋白も上昇する傾向があることの根拠として使用 - Erythrocytosis. eClinPath, Cornell University College of Veterinary Medicine. https://eclinpath.com/hematology/polycythemia/
→ 脾臓に全赤血球の最大30%が蓄えられ、強い興奮や恐怖による脾臓収縮で放出されうることの根拠として使用。大学の教育リソースであり査読論文ではありません
※この記事の数値は上記の出典に基づいています。出典を確認できなかった数値は掲載していません。検査の基準範囲は測定機器・検査会社・年齢によって異なるため、実際の結果表の判定はかかりつけの獣医師にご確認ください。


コメント