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「今まで何年もちゃんとトイレでできていたのに、どうして急にベッドの上でおしっこするの?」
布団を洗い、カーペットを拭き、それでも数日後にまた同じ場所でやられる。においがなかなか抜けない。叱っていいのかも分からない。粗相に悩む飼い主さんは、たいてい「うちの子だけがおかしいのでは」と感じています。ですが、トイレの失敗は猫の行動相談で最も多い主訴のひとつです。
この記事では、粗相の原因を「病気」「トイレ環境」「ストレス」の3つに切り分けたうえで、いま起きている粗相にどう対応するかを整理します。トイレ製品そのものの選び方は別記事にまとめてあるので、この記事は切り分けと対応に集中します。
数値や推奨の根拠は、国際的な診療ガイドラインと査読付きの選好研究に当たって確認しました。確認できなかった記述は削除し、根拠の強さが十分でないものは記事末尾でその旨を明記しています。
この記事の結論
✅ 粗相は「しつけの失敗」ではありません。体の不調・トイレ環境・ストレスのいずれかを伝えるサインです。
✅ 最初にやることは、動物病院で病気を除外することです。環境の見直しはその後になります。
✅ 猫が汚れたトイレを避ける理由は、においではなく「残っている塊が目に見えること」だと報告されています。
✅ 何が好きかを当てるより、条件の違うトイレを並べて猫に選ばせるほうが確実です。
⚠️ ただし、何度もトイレに入るのに尿がほとんど出ていない場合、これは粗相の問題ではありません。尿道が詰まっている可能性があります。この記事を読み進めず、いますぐ動物病院に連絡してください。
1. まず確認|「しない」のか「できない」のか
粗相の対策を考える前に、切り分けておくべきことがあります。おしっこを「別の場所でしている」のか、「そもそも出せていない」のかです。
後者は緊急事態です。次のような様子があれば、環境の見直しより受診が先です。
- トイレに何度も出入りするのに、尿がほとんど出ない・数滴しか出ない
- 排尿の姿勢をとったまま、力んでも出ない
- 排尿時に鳴く、いつもと違う声を出す
- 尿に血が混じっている
- お腹や陰部をしきりに舐める
- 元気がない、食欲がない、嘔吐している
尿道閉塞は、ほぼオス猫だけに起こります
尿道閉塞(にょうどうへいそく)とは、結石や炎症性の物質が尿の通り道をふさいでしまう状態です。2025年の国際ガイドラインは、こう記述しています。
尿道閉塞(UO)はほぼオス猫に限って発生し、生命を脅かす合併症を伴う下部尿路疾患の一病態である。
2025 iCatCare consensus guidelines(筆者訳)
オス猫の尿道が細く長い構造をしているためです。
危険なのは進行の速さです。同ガイドラインは「完全かつ急性の閉塞では、24〜48時間以内に尿毒症が現れる」と記載しています。最も命に関わる合併症は、血液中のカリウムが上がる高カリウム血症です。
ここが重要です。「24時間出ていなければ受診」という目安を、24時間待ってよいという意味に取らないでください。24時間が経った時点では、すでに全身症状が出始める段階です。
判断の基準は時計ではなく、「トイレに何度も通っているのに出ていない」という様子そのものだと考えてください。気づいた時点が受診のタイミングです。夜間・休日でも救急対応の動物病院に連絡してください。
詰まりの原因になる結石には主に2つのタイプがあり、フードや水分摂取との関係も分かっています。予防の考え方を知りたい場合はこちらへどうぞ。
→ 猫の尿路結石とは?2大タイプの違いと今日からできる予防法
「便秘だと思っていた」という取り違えに注意
ガイドラインは「飼い主は排尿困難を便秘と取り違えることがある」と明記しています。トイレでうずくまって力んでいる姿は、どちらもよく似ているためです。
逆に、実際に便が数日出ていない、便が硬く小さいという場合も、自己判断で下剤や浣腸を使わず獣医師に相談してください。便の状態から読み取れるサインを整理したい場合は、こちらが参考になります。
→ 猫のうんちの色・形・回数でわかる健康サイン|受診の目安も
「FLUTD」という病名はありません
猫の泌尿器トラブルは、長らく「猫下部尿路疾患(FLUTD)」と総称されてきました。ですが2025年の国際ガイドラインは、この用語の使用をやめています。
「FLUTD」は診断名ではなく、その症状の原因を説明していない。また、多くの下部尿路疾患が持つ複雑な病態生理を飼い主が理解する助けにもならない。
2025 iCatCare consensus guidelines(筆者訳)
実際の原因の内訳は次のとおりです。
| 原因 | 下部尿路症状に占める割合 | 補足 |
|---|---|---|
| 特発性膀胱炎(原因を特定できないもの) | 約55〜65% | 最も多い。ストレスとの関連が指摘されている |
| 尿石症 | 10〜23% | 尿道閉塞の重要な原因でもある |
| 細菌感染 | 3%未満 | 「その他の点では健康な成猫」の場合。高齢猫や腎臓病の猫では割合が上がる |
つまり、症状が同じでも原因は複数あります。「膀胱炎ですね」で終わらせず、原因の切り分けが必要だということです。
ここまでのまとめ
- 「トイレに通うのに出ていない」は粗相ではなく緊急事態。気づいた時点で受診する
- 尿道閉塞はほぼオス猫に起こり、24〜48時間で尿毒症に至る
- 力んでいる姿は便秘と見分けがつきにくい
- 下部尿路の症状は、原因が複数ある。最多は特発性膀胱炎で約55〜65%
2. 粗相の原因は3つに整理できる
緊急サインがない場合、原因は次の3つに分けて考えると見通しが立ちます。
2-1. 病気・体の不調
まず押さえておきたいのは、排尿時の痛みが「トイレ=痛い場所」という学習を作ってしまうことです。膀胱炎が治っても、トイレを避ける行動だけが残ることがあります。体調が戻れば自動的に解決する、とは限りません。
高齢猫では、別の要因が重なります。慢性腎臓病による飲水量・尿量の増加、糖尿病、甲状腺機能亢進症。いずれも尿量が増え、トイレが間に合わなくなります。
見落とされやすいのが関節炎です。見た目に分かりにくく、「年のせい」で片づけられがちですが、縁の高いトイレをまたぐのがつらくなっている可能性があります。
特に慢性腎臓病は、多飲多尿から粗相につながる代表的な病気です。初期症状や検査については、こちらで詳しく整理しています。
→ 猫の慢性腎臓病とは?初期症状・検査・新薬AIMまで解説
粗相が続くときは、まず健康診断で病気を除外することが出発点です。2025年のガイドラインも、はっきり書いています。
重要なこととして、猫がトイレの外で排尿している場合、行動面の原因を割り当てる前に下部尿路疾患を除外すべきである。
2025 iCatCare consensus guidelines(筆者訳)
2-2. トイレ環境が猫の好みに合っていない
猫は排泄環境に対して繊細です。数・大きさ・砂の種類・清潔さ・置き場所のどれかが合わないだけで、別の場所を選ぶことがあります。ここが飼い主の手で最も変えやすい部分なので、次の章で押さえるべき点を整理します。
2-3. ストレス・不安
引っ越し、家具の配置換え、新しい同居動物や家族、来客、工事の音、窓の外を歩く猫。こうした変化がきっかけになります。
ここで区別しておきたいのが、粗相とスプレー行動(マーキング)の違いです。
| 粗相 | スプレー | |
|---|---|---|
| 姿勢 | しゃがむ | 立ったまま |
| 場所 | 床など水平面 | 壁など垂直面 |
| 量 | まとまった量 | 少量 |
| しっぽ | 特徴なし | 立てて震わせることが多い |
| 対応の方向 | トイレ環境の改善 | 不安・縄張りへの対応 |
ガイドラインは「粗相とスプレーの区別は、医学的原因と行動的原因を切り分けるうえで不可欠である」と述べ、スプレーについてはこう説明しています。
尿スプレー(マーキング)は、コミュニケーションを目的として、通常は垂直面に尿を付着させる行動と定義される。この行動を示す猫でも下部尿路疾患の除外は必要だが、多くの場合、基礎疾患は見つからない。
2025 iCatCare consensus guidelines Box 2(筆者訳)
つまりスプレーは、環境のストレス要因に対する反応として現れる問題行動である可能性が高い、ということです。トイレを改善するだけでは解決しにくいため、どちらなのかの見極めが遠回りを避ける近道になります。
2-4. 性格や品種の影響は「あるが、小さい」
「うちの子の性格の問題なのでは」と考えたくなる場面ですが、大規模な調査があります。フィンランドで3,049頭を対象に行われた研究(Mikkolaら 2023年)は、粗相と「トイレへのこだわり」の2因子について、多数の背景変数との関連を解析しました。
結果として、他の猫に対する社交性、品種、恐怖傾向などが統計的に有意な関連を示しました。ただし著者らは、効果量についてこう報告しています。
Cohenのf²推定値は0.001未満から0.019の範囲であった。したがって、提唱されているCohenの基準値(小=0.02、中=0.15、大=0.35)に照らすと、すべての変数が「小」を下回る効果量であった。
Mikkola S, et al. JAVMA. 2023(筆者訳)
つまり、性格や品種は関連するけれども、粗相を説明する力としては小さいということです。持って生まれたものを嘆くより、環境を変えたほうが効きます。
ここまでのまとめ
- 順番は「病気の除外 → トイレ環境 → ストレス」
- 痛みの記憶だけが残り、治療後も粗相が続くことがある
- 粗相とスプレーは対応が別。姿勢と場所で見分ける
- 性格や品種の影響は統計的には出るが、説明力は小さい
3. トイレ環境を見直す7つのチェックポイント
粗相が起きているときに、まず点検すべき7項目です。製品ごとの選び方・実寸・研究で使われたトイレのサイズは別記事にまとめてあるので、ここでは基準だけを押さえます。
| 基準 | 根拠 | |
|---|---|---|
| ① 数 | 猫の頭数+1個。並べず離れた静かな場所に分散。複数階なら各階に最低1つ | 2025補足資料/2014 AAFP/ISFM |
| ② サイズ | 猫の鼻先から尾の付け根までの約1.5倍の長さ。市販品は小さいことが多い | 2014 AAFP/ISFM |
| ③ 砂 | 無香料・砂状・固まるタイプを3〜5cmの深さに | 2025補足資料 |
| ④ 掃除 | 固形物は1日1〜2回すくう。本体は1〜2週間ごとに丸洗い | 2025補足資料 |
| ⑤ 置き場所 | 突然音がする場所・行き止まり・食器と水のそばを避ける | 2014 AAFP/ISFM |
| ⑥ 形状 | フタの有無は好みが半々。毎日掃除できるかで判断 | 2014 AAFP/ISFM |
| ⑦ 入り口 | 高齢猫・関節に不安のある猫には側面の低いもの | 2025補足資料 |
サイズの根拠になった選好研究の数字、製品ごとの内寸の比較、実際に使っている3台の使用感はこちらです。
→ 猫用トイレのおすすめ|選び方の4基準と実際に使っている3台
以下では、この7項目のうち粗相が起きているときに特に効く3点を詳しく見ます。
③ 砂|固まらない砂は、膀胱炎のリスク因子でもある
2025年のガイドラインは、飼い主向けの補足資料でこう書いています。
無香料で、砂状の、固まる猫砂を、およそ3〜5cm(1〜2インチ)の深さに入れる。より深い砂を好む猫もいる。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
この点は、好みの問題にとどまりません。ガイドライン本文は、固まらない砂の使用を特発性膀胱炎のリスク因子のひとつとして挙げています。
リスク因子には、遺伝、幼少期の逆境体験、神経質な気質、室内環境、脅威への反応性の高さ、頻繁な食事変更、活動性の低い生活、肥満、固まらない猫砂の使用、多頭飼育、家庭内の不安定さ、高い場所がないことが含まれる。
2025 iCatCare consensus guidelines 本文(筆者訳)
砂選びは、快適さだけでなく病気のリスクにも関わっているということです。
香りについても明確です。同じ補足資料は、次のように挙げています。
猫はにおいに非常に敏感なので、コンセント式の芳香剤、お香、香りつきキャンドルは避けるのが望ましい。トイレのライナー、香りつきの猫砂、猫砂用の消臭剤も同様である。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
ライナーと消臭剤まで名指しされている点に注目してください。2014年のAAFP/ISFMガイドラインも「ライナー、すのこ状のグリル、消臭パウダーは避けること」と記載しており、11年を隔てた2つのガイドラインが一致しています。
選好研究でも方向性は一致しています。日本のIwabuchi-Inoueら(2025年)は「猫は50cm以上のトイレと、固まる粘土系(clay)の猫砂を好んだ」と報告しています。
▼ 我が家で使用している猫砂
※価格・在庫は変動します。購入前に販売ページの最新情報をご確認ください。
砂の深さは、資料によって幅があります
| 資料 | 推奨する深さ |
|---|---|
| 2025 iCatCare 飼い主向けガイド | 3〜5cm。「より深い砂を好む猫もいる」 |
| 2014 AAFP/ISFM ガイドライン | 少なくとも1.25インチ(3cm) |
| Griggら 2013年(研究で実際に用いた深さ) | 約5cm |
| Herron 2010年(総説の推奨) | 4〜6インチ(約10〜15cm) |
3cmから15cmまで開きがあります。目的は猫が十分に掘れることなので、数値を守ることより、愛猫が掘りきれているかを見て調整してください。
うんちだけトイレの外でしてしまう場合は、砂を足してみる価値があります。掘って埋める動作は排便時のほうが入念になりやすく、深さが足りないと完結しないためです。ただしこれは筆者の判断であって、排便時に深い砂が好まれることを示した研究は確認できませんでした。
なお、うんちの問題が続く場合は、便そのものに原因があることもあります。硬さや色に変化がないかもあわせて確認してみてください。
→ 猫のうんちの色・形・回数でわかる健康サイン|受診の目安も
④ 掃除|嫌われる理由は「におい」ではありませんでした
2025年の補足資料が示す基準は具体的です。
固形物は1日1〜2回すくい、使用状況に応じて1〜2週間ごとに徹底的に洗浄する。お湯と食器用洗剤、または猫に安全な洗剤を使い、よくすすいで乾かしてから砂を入れ直す。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
ここで、思い込みを1つ修正しておきます。猫が汚れたトイレを嫌う理由は、においではありませんでした。
多頭飼育を想定した実験(Ellisら 2017年)の抄録から、そのまま引用します。
猫は汚れたトイレより清潔なトイレを好んだが、直前に使用した個体が誰かは選好に影響しなかった。尿および/または便のにおいの存在は選好に影響しなかった一方、においのない模造の尿および/または便の存在は影響した——模造便のほうが模造尿より好まれた。この結果は、悪臭も化学的コミュニケーションもトイレの選好には関与しておらず、物理的・視覚的な障害物を定期的に取り除くことが、正しいトイレ使用を促す鍵であることを示している。
Ellis JJ, McGowan RTS, Martin F. Behav Processes. 2017(筆者訳)
効いているのは、においではなくそこに何か残っていることです。「他の猫のにおいが嫌で使わない」という通説も、この研究では支持されませんでした。
ただし、この研究が調べたのはトイレの中に残った猫自身の排泄物のにおいだけです。人工的な香料(③)や、床やカーペットに染みついた尿の跡(7-2)は別の話で、これらについては、においが問題になります。
それでも、日々の掃除に関して言えることは単純です。消臭剤を足すより、すくう回数を増やすほうが確実だということになります。
⑦ 入り口|シニアで急に粗相が増えたら、まずここ
子猫、高齢猫、関節炎のある猫、肥満気味の猫にとって、高い縁は大きな障害です。2025年の補足資料も、トイレの条件のひとつとして明記しています。
入りやすいこと——たとえば、高齢の猫や運動機能に困難のある猫のために側面を低くするなど。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
2014年のAAFP/ISFMガイドラインも「側面を切り下げた収納ケースは良いトイレになる。入口が低いことで、高齢の猫や変性性関節疾患のある猫が使いやすくなる」としています。専用品でなくても構いません。
シニア期に入って急に粗相が増えた場合、この項目が原因であることは珍しくありません。入り口の一部が低いタイプに変えるか、スロープを足してみてください。
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ここまでのまとめ
- 砂は無香料・砂状・固まるタイプを3〜5cm。固まらない砂は膀胱炎のリスク因子でもある
- ライナー・香りつき砂・消臭剤は、2つのガイドラインがそろって避けるよう勧めている
- 掃除は1日1〜2回、本体は1〜2週間ごと。効いているのは「におい」ではなく「残っている塊」
- シニアで急に粗相が増えたら、入り口の高さを疑う
4. 「トイレカフェテリア」で猫自身に選ばせる
ここまでチェックポイントを挙げてきましたが、実際のところ「うちの子が何を好むか」は、飼い主が推測するより猫に選ばせたほうが確実です。そのための方法が、獣医行動学で「トイレカフェテリア」と呼ばれる手法です。
やり方はシンプルです。条件の違うトイレを複数並べて同時に置き、どれをよく使うかを数日〜2週間観察するだけ。ひとつずつ順番に試すより効率がよく、猫の選択がはっきり見えます。
比較する条件の例
- 砂の種類:固まる砂と固まらない砂、鉱物系と紙系など
- 砂の深さ:浅めと深め
- トイレの形状:屋根つきと屋根なし、大きいものと小さいもの
- 置き場所:部屋を変えて置いてみる
- 粗相していた場所の素材:カーペットの切れ端、タオル、床材など
一度に全部を変えると何が効いたのか分からなくなります。比較する条件は1種類ずつにしてください。まず砂で比べ、好みが決まったらその砂を使って形状を比べる、という順番が実用的です。
痛みを経験した猫には、特に有効です
2025年の補足資料は、痛みとトイレの結びつきについてこう書いています。
尿路疾患による痛みを経験した猫は、それをトイレと結びつけてしまうことがある。このような場合、別の場所に、別の種類の砂を入れた新しいトイレを用意することが助けになりうる。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
ここで補足しておきます。痛みが続いている最中に選択肢を増やしても、どのトイレも「痛い場所」になるだけです。受診と治療を先に済ませてから始めるほうが、結果は読み取りやすくなります。
ただしこの「順番」は筆者の判断であって、ガイドラインが時期を指定しているわけではありません。ガイドラインが述べているのは、新しい選択肢の提供が有効でありうる、という点までです。
屋根つきも選択肢に入れる
屋根つきトイレは、猫にとって内部ににおいがこもり、視界が制限され、他の猫に出口をふさがれるリスクがあると言われます。ですが実際に測った研究(Griggら 2013年)の結果は、そう単純ではありませんでした。
| 結果 | 頭数 | 割合 |
|---|---|---|
| 屋根つきを好んだ | 4匹 | 15% |
| 屋根なしを好んだ | 4匹 | 15% |
| どちらでもよかった | 19匹 | 70% |
この研究では両方のトイレが毎日掃除されており、著者らはきれいに保たれていれば強い好みの差は出にくいと考察しています。2014年のAAFP/ISFMガイドラインも「猫の好みは、大きなフタつきトイレとフタなしトイレとでほぼ半々に分かれる」としています。
全体では有意差がなかったにもかかわらず、Griggらは「少数ではあるが確かに好みを持つ猫がいる以上、カフェテリアを試す価値がある」と結論づけ、選択肢には屋根つきトイレも入れるべきだと述べています。獣医師のあいだでも屋根つきは候補から外されがちですが、この研究では屋根つきを好む猫が確かに存在したためです。
なお、この研究の猫たちは粗相をしていない健康な猫でした。著者らは、実際に粗相が起きている猫では、より強い好みや違った好みが出る可能性があると述べています。困っている猫ほど、カフェテリアで得られる情報は大きいかもしれません。
5. 自動掃除トイレは粗相対策になるか
自動掃除トイレは、④の「1日1〜2回」という掃除頻度を確実に満たせる点で魅力的です。猫が嫌うのは残っている排泄物ですから、常に取り除かれるのは理にかなっています。
ただし、獣医行動学の側からは注意点も指摘されています。米国獣医行動学専門医のMeghan Herron獣医師による総説(2010年)から引用します。
自動掃除トイレは清潔さを高めるが、動作音と動きが嫌なものと結びつくため、避ける猫がいる。
Herron ME. Top Companion Anim Med. 2010(筆者訳)
同論文のトイレ管理の推奨表でも、自動掃除トイレの欄には「音に敏感な猫には推奨しない」と明記されています。
導入するなら、いきなり切り替えない
猫は急な変化を嫌います。Herron獣医師の総説でも、トイレの形状を大きく変えるときの原則として、今使っているトイレをすぐに撤去せず、新しいトイレを並べて置いて猫が選ぶのを待つことが推奨されています。
自動掃除トイレはまさに「大きな変化」です。導入するなら、次のような進め方が無難です。
- 今までのトイレは残したまま、自動トイレを追加する
- 最初は自動機能をオフにして、ただの箱として慣れてもらう
- 使うようになってから、自動機能をオンにする
- 猫がいるあいだは動かない設定(退出後に時間をおいて作動する)を選ぶ
そして猫が使わなければ、無理をしない。高価な機械ですが、使ってくれなければ意味がありません。①の「頭数+1個」からすれば、従来型と併用してどちらも選べる状態にしておくのが猫には親切です。
排泄物を見る機会が減ります
この記事の趣旨から、もうひとつ言っておきたいことがあります。自動で処理されると、排泄物を目にする機会が減ります。
2025年のガイドライン本文には、興味深い記述があります。飼い主は猫の排尿頻度を過小評価しがちであること。そして固まる砂を使っている場合、塊の大きさで尿量を評価できること。裏を返せば、塊を見るという行為には診断上の意味があるということです。
1章で挙げた危険なサイン——尿が出ていない、血が混じっている、量が変わった——は、いずれも飼い主が排泄物を見て気づくものです。自動トイレを使う場合は、廃棄物の受け皿を定期的に確認する習慣を意識的に作ってください。
体重や使用回数を記録するアプリ連動型もあります。数値の変化から早期に異変に気づけるのは利点ですが、尿の色や血尿は数値には出ません。機械に任せきりにせず、自分の目で見る時間は残しておきたいところです。
我が家では、トイレの下にCatlog Boardを敷いています。おしっこ・うんちの回数のほか、体重も自動で記録されます。手作業のチェックを置き換えるものではなく、補うものとして使っています。
6. トイレの縁に足を乗せるのは、粗相の前ぶれかもしれません
前足だけ、あるいは四本足すべてを縁に乗せて用を足す猫がいます。砂に足をつけずに排泄する、いわゆる「パーチング」と呼ばれる行動です。見ていると器用でおもしろいのですが、獣医行動学では砂やトイレ本体を気に入っていないことを示す行動のひとつとして扱われています。
2014年のAAFP/ISFMガイドラインにも、同じ趣旨の記述があります。
片足や両足だけを中に入れてトイレの縁でバランスをとるのは、猫砂そのもの、または汚れた砂への嫌悪を示している可能性がある。
2014 AAFP/ISFM House-soiling Guidelines(筆者訳)
米国獣医行動学専門医のTerry Marie Curtis獣医師による解説記事(2015年)は、砂・トイレへの嫌悪を示す行動として次の4つを挙げています。
- トイレの縁に足を乗せる
- ほとんど掘らない・砂をかけない
- トイレから出たあとに足を振る
- そそくさと急いで出ていく
背景として同記事が挙げている原因は、砂の種類を変えた、トイレの形状(特に小さいトイレ。屋根の有無を問わない)、清掃が行き届いていない、今の砂やトイレで痛い思いをした経験がある、の4点です。
つまりこの行動は、②のサイズ、③の砂、④の清潔さのいずれかに引っかかっている可能性を示しています。粗相という形で表面化する前の、早い段階のサインと捉えると対応しやすくなります。
ただし注意点があります。この行動そのものの頻度を測定した研究は確認できませんでした。あくまで臨床の現場で知られている所見という位置づけです。体格の大きい猫が昔から縁に乗る癖があるだけで、粗相もなく健康にも問題がないというケースは珍しくありません。
判断の分かれ目は「いつからか」です。子猫のころからの癖なら、その子の個性である可能性が高いといえます。一方、これまで普通に入っていた猫が急に縁に乗るようになった場合は、砂の変更や汚れ、あるいは排泄時の痛みを疑ってください。特に、砂もトイレも変えていないのに始まった場合は、体の不調を先に確認する価値があります。
なお、縁に乗った姿勢では尿がトイレの外に飛ぶことがあります。トイレの周りが濡れている場合、粗相ではなくこの姿勢が原因かもしれません。深型・大型のトイレに変えると収まることがあります。
7. 粗相したときにやってはいけない3つの対応
7-1. 叱る・鼻を押しつける
猫は「その場所で排泄したこと」を叱られたとは理解しません。飼い主への恐怖や不安が増し、隠れた場所で排泄するようになるなど、状況が悪化します。
これは印象論ではありません。2025年の飼い主向けガイドが、はっきり書いています。
猫を怒鳴りつけたり罰したりしては決してならない(たとえばトイレ以外での排尿に対して)。それは猫を怯えさせるだけでなく、ストレスを増やし、問題を悪化させる。
2025 iCatCare 飼い主向けガイド(筆者訳)
叱ることは、粗相をやめさせる方法として機能しないばかりか、原因であるストレスそのものを増やすという指摘です。
7-2. 消臭スプレーや水拭きだけで済ませる
粗相の跡は、においを上書きするのではなく成分そのものを分解して取り除く必要があります。尿にはタンパク質や尿素などが含まれ、水拭きや芳香剤では床材やカーペットの繊維の奥に残ります。人がにおいを感じなくなっても、猫の嗅覚には手がかりが残り、同じ場所で繰り返す原因になります。
使うならペット用の酵素系(バイオ系)クリーナーです。Herron獣医師の総説は、こう記述しています。
複数の研究により、酵素系クリーナーが尿のにおいを減らし、再発を防ぐうえで最も効果的であることが示されている。
Herron ME. Top Companion Anim Med. 2010(筆者訳)
たっぷり吹きかけて数分置き、拭き取るのがコツです。
また、柑橘系や香料の強い洗剤・消臭剤は避けてください。③でも触れたとおり、2025年の飼い主向けガイドは香りの強い製品を猫の環境から避けるよう求めています。
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7-3. 自己判断で薬やサプリを使う
人用の薬は猫にとって危険なものが多くあります。療法食やサプリメントも、猫の状態に合っていなければ逆効果になり得ます。必ず獣医師に相談してください。
8. 我が家の2匹で試したこと
ここからは研究の話ではなく、我が家での実例です。猫2匹の事例にすぎないので、参考程度に読んでください。
木チップから鉱物系に変えたら、使用頻度が変わった
お迎えした当初は、システムトイレ(木チップ)を2台置いていました。しばらくしてから、そのうち1台を大型トレー(鉱物系の猫砂)に変更したところ、鉱物系のほうが圧倒的に使用頻度が高くなりました。そのため現在は鉱物系に統一しています。
ひとつ補足しておくと、この入れ替えでは砂の種類とトイレの形状を同時に変えていました。厳密には「鉱物系の砂を選んだ」のか「大きい容器を選んだ」のかを切り分けられていません。原因をはっきりさせたい場合は、両方のトイレに同じ砂を入れて比べる必要があります。
また、木チップのほうが先に使っていた慣れた環境だったにもかかわらず、あとから来た鉱物系が選ばれた点は、それだけ好みがはっきりしていたのだろうと考えています。
増やしたトイレを、先住猫が気に入った
その後、大型トレー2台の体制で過ごしていましたが、2匹目を迎えるにあたってもう1台追加しました。①の「頭数+1個」に合わせた形です。追加したのはステンレス製のXLサイズで、人間が中に座れてしまうほどの大きさがあります。
意外だったのは、先住猫がこのステンレストイレをとても気に入ったことです。新入り猫のために増やしたトイレが、先住猫の好みに刺さった形になりました。
これは、トイレを増やしてみて初めて猫の好みが分かることがあるという例でもあります。大型トレー2台だけの時期には、この子がもっと広いトイレを好むことに気づけませんでした。カフェテリアをわざわざ実施しなくても、増設したトイレの使われ方を観察するだけで、似た情報が得られることがあります。
使っている3台の実寸と使用感は、こちらにまとめています。
→ 猫用トイレのおすすめ|選び方の4基準と実際に使っている3台
同じ家でも、猫によってここまで違う
先住猫の使い分けは徹底していて、おしっことうんちは必ず別のトイレでします。おしっこはステンレストイレ、うんちは大型トレーということが多く、おしっこをした直後にわざわざ移動して別のトイレでうんちをすることもあります。
一方、後輩猫はあまり気にしていないようで、おしっこもうんちも同じトイレで済ませますし、使うトイレも毎回バラバラです。ただ、寝室のトイレを使う回数が多いように感じます。
「猫はこうするもの」と一般化しづらいということの、分かりやすい例かもしれません。トイレを複数用意しておくと、こうした使い分けをする猫にも対応できます。「頭数+1個」という目安には、そうした余裕を持たせる意味もあると感じています。
自動掃除トイレを使っていない理由
置き場所は、寝室に1台、リビングに2台です。リビングの2台は隣り合わせにせず、離れた場所に分けています。①で触れたとおり、並べて置くと猫にとっては実質1か所とみなされやすいためです。
掃除は1日2回、加えて気づいたその都度すくっています。それぞれが少なくとも1日1回は排尿しているかを確認することが目的で、手作業にこだわっています。
3台を毎日すくっていると、尿の塊がいくつあるか、大きさはどうか、色は変わっていないかが自然と目に入ります。多頭飼育では「どちらかが出していない」状況に気づきにくいのですが、合計の数が明らかに足りない日は、その時点で異変に気づけます。5章で触れた「塊の大きさで尿量を評価する」という考え方を、そのまま日課にしている形です。
手間はかかりますが、我が家ではそこを優先しています。とはいえ、猫が快適に使えるようになれば目的は達成されています。原因の特定より、猫が選んだほうに合わせる。カフェテリアもトイレの増設も、そのための手がかりを得る方法だと考えると気楽に試せます。
9. 治療費の備えについて
粗相の背景に病気があった場合、特に尿道閉塞のように緊急処置や入院が必要になるケースでは、費用が高額になることがあります。夜間救急ではさらに加算されます。
ここで知っておきたいのは、尿道閉塞が一度で終わるとは限らない病気だということです。2025年のガイドラインには、閉塞解除後の再発率について複数の数字が出てきます。確認できた範囲では、ある研究で再発率31%、留置カテーテルで入院管理した猫では11%と報告されています。
いずれも管理方法や研究によって大きく変わる数字なので、「何%だから安心」「何%だから危険」と読むべきものではありません。押さえておくべきは、再発しうる病気であり、費用も一度きりとは限らないという点です。
だからこそ、費用の備えと環境の改善は両輪になります。実際の金額は病院や地域、処置内容によって大きく異なるため、かかりつけの病院で目安を聞いておくと安心です。費用を理由に受診をためらう状況は、猫にとっても飼い主にとってもつらいものです。
ペット保険を検討する場合、まず見るべき比較軸を押さえておくと選びやすくなります。
→ 猫のペット保険の選び方|比較で見る6つの問いと注意点
具体的な社名まで絞り込んだ段階なら、窓口精算に対応する2社の補償内容と保険料はこちらで比較しています。
→ アニコムと第一アイペットを比較|補償が始まるのはいつ?
よくある質問(FAQ)
Q1. どのタイミングで病院に行くべきですか?
粗相そのものであれば、次の平日にかかりつけで健康診断を受けてください。急ぐ必要はありませんが、環境を変える前に病気を除外しておくことが大切です。
一方、トイレに何度も通うのに尿が出ていない場合は、その時点で受診してください。これは「我慢している」のではなく「出せない」状態、つまり尿道閉塞の可能性があります。朝まで待つ、翌日の診療時間まで待つという判断はしないでください。夜間や休日であれば、救急対応の動物病院に連絡してください。
「トイレの砂が固まっていないだけかもしれない」と考えたくなる場面ですが、様子を見て失うものと、受診して何もなかった場合に失うものを比べてください。判断に迷った時点で、電話だけでもかけてみる価値があります。
Q2. 引っ越し後にトイレを使わなくなりました。慣れるまで待つべき?
環境変化によるストレスの可能性はありますが、ストレスが引き金となって膀胱炎を発症することもあります。「様子を見る」前に、排尿があるか・血尿がないか・食欲があるかを確認してください。
異常がなければ、使い慣れたトイレと砂をそのまま使い、静かな場所に置いて、隠れられる場所を用意してあげてください。新居で心機一転すべてを新調するのは、猫にとっては逆効果になります。
Q3. 多頭飼育で1匹だけ粗相します。どうすれば?
まずその子の健康状態を確認してください。そのうえで、猫同士の関係を観察します。特定の猫がトイレの周辺を占有していたり、通り道で待ち伏せしていたりすることがあります。トイレを別の部屋に増設し、それぞれが他の猫に会わずに使える動線を作ってみてください。
猫同士の緊張は、派手なケンカとは限りません。多頭飼育の2,492世帯を対象にした調査(Elzermanら 2020年)は、こう報告しています。
じっと見つめる行動は最も高頻度に観察された衝突のサインで、44.9%の世帯で少なくとも毎日起きていた。以下、追いかける、忍び寄る、逃げる、しっぽを小刻みに動かす、威嚇する、鳴き叫ぶ、の順に頻度が下がった。
Elzerman AL, et al. J Feline Med Surg. 2020(筆者訳)
同じ調査で、威嚇(シャーッと言う)を毎日以上観察していた世帯は18%でした。分かりやすいサインほど、頻度は低いということになります。
トイレの前で見つめて通せんぼする、というのも立派な緊張のサインです。多頭飼育の環境づくりの基本はこちらで整理しています。
→ 猫の多頭飼いの問題と対策|環境の整え方と2匹目を迎える判断
また、日頃から「全体で1日何回排尿があるか」を把握しておくと、異変に気づきやすくなります。合計数が急に減った日は、どちらかが出せていない可能性を疑ってください。
Q4. 他の猫のにおいが残っていると使わないのでは?
よく言われる話ですが、実験では支持されませんでした。④で触れたEllisら(2017年)の研究では、直前に使ったのがどの猫かも、尿や便のにおいも、選好に影響しませんでした。影響したのは、においのない模造の排泄物を置いた場合です。
気にすべきは「誰のにおいか」ではなく「何個残っているか」です。すくう回数を増やしてください。
Q5. トイレを新しくしたら使わなくなりました
猫は急な変化を嫌います。古いトイレをすぐに撤去せず、新旧を並べて置き、猫が自分で新しいほうを選ぶのを待ってください。
砂を変えた場合も同様に、古い砂に新しい砂を少しずつ混ぜて時間をかけて移行すると受け入れられやすくなります。この原則は、自動掃除トイレに切り替える場合も同じです。
まとめ
粗相は、猫が言葉以外の方法で「困っている」と伝えているサインです。叱るのではなく、体調と環境の両面から原因を探していくことが解決への道になります。
手順を整理すると、次のようになります。
- 「出ていない」状態でないかを確認する(該当すればすぐ受診)
- 健康診断で病気を除外する
- トイレの数・サイズ・砂・清潔さ・置き場所・形状・入り口を点検する
- それでも続くなら、条件を1つずつ変えて猫に選ばせる
そして、迷ったときは獣医師に相談してください。特に排尿が出ていない場合は、様子を見るという選択をしないでください。早い判断が、猫の負担を小さくします。
出典・参考文献
【出典に関する注記】
本記事では、原典に当たって内容を確認できた文献のみを根拠にしています。書誌情報は実在するものの内容を確認できなかった資料は、記述ごと削除しました(末尾に一覧を載せています)。
診療ガイドライン(本文)
- Taylor S, Boysen S, Buffington T, Chalhoub S, Defauw P, Delgado MM, Gunn-Moore D, Korman R. 2025 iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of lower urinary tract diseases in cats. J Feline Med Surg. 2025;27(2). doi:10.1177/1098612X241309176(オープンアクセス。著者は上記8名で全員) → この記事では、「FLUTD」を診断名として使わない理由/原因内訳(特発性膀胱炎55〜65%、尿石症10〜23%、その他の点では健康な成猫の細菌感染3%未満)/尿道閉塞がほぼオス猫に限られること/完全かつ急性の閉塞で24〜48時間以内に尿毒症が現れること/飼い主が排尿困難を便秘と取り違えること/行動的原因を割り当てる前に下部尿路疾患を除外すべきこと/粗相とスプレーの区別が不可欠であること(Box 2)/特発性膀胱炎のリスク因子(固まらない猫砂の使用を含む)/飼い主が排尿頻度を過小評価しがちなこと/固まる砂では塊の大きさで尿量を評価できること/閉塞解除後の再発率(ある研究で31%、留置カテーテル入院例で11%)の根拠として使用
同ガイドラインの飼い主向け補足資料
本記事でトイレ管理の推奨として引用したものの多くは、ガイドライン本文ではなく、付属する飼い主向けガイドの記述です。混同を避けるため分けて記載します。
- Understanding urinary tract diseases and how to help cats at home: a guide for caregivers. International Cat Care(上記ガイドラインの補足資料) → この記事では、トイレの数「頭数+1個」と離れた静かな場所への設置/無香料・砂状・固まる猫砂を3〜5cmの深さに(より深い砂を好む猫もいる)/固形物は1日1〜2回すくい、1〜2週間ごとにお湯と洗剤で洗浄/入りやすさ(高齢猫や運動機能に困難のある猫のために側面を低く)/芳香剤・お香・香りつきキャンドル・トイレのライナー・香りつき猫砂・猫砂用消臭剤を避けること/尿路疾患の痛みをトイレと結びつけた猫には別の場所に別の砂で新しいトイレを用意すること/猫を怒鳴りつけたり罰したりしてはならないことの根拠として使用
査読論文・専門誌
- Carney HC, Sadek TP, Curtis TM, Halls V, Heath S, Hutchison P, Mundschenk K, Westropp JL. AAFP and ISFM Guidelines for Diagnosing and Solving House-Soiling Behavior in Cats. J Feline Med Surg. 2014;16(7):579-598. doi:10.1177/1098612X14539092 → この記事では、トイレのサイズ「鼻先から尾の付け根までの1.5倍」/複数階の家では各階に最低1つ/フードと水の近くを避けること/フタつきとフタなしの好みがほぼ半々であること/側面を切り下げた収納ベースが良いトイレになり低い入口が高齢猫や変性性関節疾患の猫を助けること/縁でバランスをとる行動が猫砂または汚れた砂への嫌悪を示しうること/ライナー・すのこ状のグリル・消臭パウダーを避けることの根拠として使用
- Grigg EK, Pick L, Nibblett B. Litter box preference in domestic cats: covered versus uncovered. J Feline Med Surg. 2013;15(4):280-284. doi:10.1177/1098612X12465606 → この記事では、27匹を解析して屋根つきを好んだ猫4匹(15%)・屋根なし4匹(15%)・好みなし19匹(70%)で全体では有意差がなかったこと/参加者全員が毎日掃除していたこと/砂の深さ約5cm/カフェテリアに屋根つきを含めるべきという結論/対象が粗相のない健康な猫であったことの根拠として使用
- Herron ME. Advances in Understanding and Treatment of Feline Inappropriate Elimination. Top Companion Anim Med. 2010;25(4):195-202. doi:10.1053/j.tcam.2010.09.005 → この記事では、自動掃除トイレが清潔さを高める一方で動作音と動きが嫌なものと結びつき避ける猫がいること/推奨表の「音に敏感な猫には推奨しない」/砂の深さ4〜6インチ(約10〜15cm)/形状を大きく変える際は旧トイレをすぐ撤去せず並べて猫に選ばせること/酵素系クリーナーが尿臭の低減と再発防止に最も効果的であることの根拠として使用
- Ellis JJ, McGowan RTS, Martin F. Does previous use affect litter box appeal in multi-cat households? Behav Processes. 2017;141(Pt 3):284-290. doi:10.1016/j.beproc.2017.02.008 → この記事では、猫が汚れたトイレより清潔なトイレを好んだこと/直前に使用した個体は選好に影響しなかったこと/尿・便のにおいは選好に影響しなかったこと/においのない模造の排泄物は選好に影響し模造便が模造尿より好まれたこと/物理的・視覚的な障害物の除去が鍵という結論の根拠として使用
- Mikkola S, Salonen M, Hakanen E, Lohi H. Feline litter box issues associate with cat personality, breed, and age at sterilization. J Am Vet Med Assoc. 2023;261(5):652-660. doi:10.2460/javma.22.10.0441 → この記事では、3,049頭を対象に粗相と「トイレへのこだわり」の2因子を解析したこと/他猫への社交性・品種・恐怖傾向との関連/Cohenのf²が0.001未満〜0.019で、すべての変数が「小」(0.02)を下回る効果量であったことの根拠として使用
- Iwabuchi-Inoue Y, Hattori Y, Kikusui T. Litter box size and litter type preference and their associated behavioral changes in cats. J Vet Med Sci. 2025;87(6):614-620. doi:10.1292/jvms.24-0468(オープンアクセス) → この記事では、猫が50cm以上のトイレと固まる粘土系(clay)の猫砂を好んだことの根拠として使用。なお筆頭著者の所属はライオンペット株式会社である旨が論文に明記されています
- Elzerman AL, DePorter TL, Beck A, Collin JF. Conflict and affiliative behavior frequency between cats in multi-cat households: a survey-based study. J Feline Med Surg. 2020;22(8):705-717. doi:10.1177/1098612X19877988 → この記事では、多頭飼育2,492世帯(猫6,431頭)の調査で「じっと見つめる」が最も高頻度の衝突サインであり44.9%の世帯で少なくとも毎日観察されたこと/威嚇(hissing)は18%の世帯であったことの根拠として使用
- Curtis TM. Feline Inappropriate Urination. Today’s Veterinary Practice. 2015年9・10月号(米国獣医行動学専門医による解説記事) → この記事では、砂・トイレへの嫌悪を示す4つの行動(縁に足を乗せる/ほとんど掘らない・砂をかけない/足を振る/急いで出ていく)とその4つの原因の根拠として使用
確認できず、記述ごと削除した資料
以前のバージョンで引用していた次の資料は、内容を原典で確認できなかったため、該当する記述とともに削除しました。読者が古い版を参照している可能性を考え、経緯を残しておきます。
- Horwitz DF(1997年)——香料入りの砂と粗相の関連について引用していました。書誌情報(Appl Anim Behav Sci. 1997;52(1-2):129-137. doi:10.1016/S0168-1591(96)01073-8)は実在を確認できましたが、出版社が抄録を非公開にしており、症例数もP値も裏づけが取れませんでした。無香料の推奨自体は、2025年の飼い主向けガイドと2014年のAAFP/ISFMガイドラインで代替しています
- Villeneuve-Beugnet V, Beugnet F(2018年)——木質ペレットが避けられる傾向について引用していました。書誌情報(J Vet Behav. 2018;25:65-70. doi:10.1016/j.jveb.2018.03.002)は実在を確認できましたが、原典が閲覧できず、その記述の有無を確認できませんでした
- Mills & Munster(2003年)——「排便時には深めの砂が好まれる」という知見の出典として挙げていました。書誌データベースを横断検索しても該当する記録が見つからず、実在を確認できませんでした
- 「上から入るタイプのトイレを避けるべき」——2025年のガイドラインが明記しているとして記載していました。本文・補足資料のいずれにも該当する記述を確認できなかったため、削除しました
- 尿道閉塞の予後(退院時生存率91〜94%/再発率11〜58%/21%が安楽死)——3つとも原典で確認できなかったため削除し、確認できた再発率の数字(31%および11%)に差し替えました
この記事の根拠について、正直にお伝えしておきます
ここまで紹介してきた内容は、根拠の強さが同じではありません。複数の研究で確かめられていることもあれば、専門家が経験から言っているだけのこともあります。
どれがどれなのかを、あらかじめお伝えしておきます。試してうまくいかなかったときに「自分のやり方が悪かった」と思わずに済むはずです。
研究で確かめられていること
- 大きいトイレのほうが好まれる(50cm以上)
- 固まる粘土系の砂が好まれる
- 屋根つきかどうかは、猫によって好みが分かれるだけ
- 汚れたトイレを避ける理由は、においではなく残っている塊
- 性格や品種の影響は統計的には出るが、効果量は「小」を下回る
この5つは、実際に猫に選ばせて測定した研究、または大規模調査があります。迷ったら、ここから手をつけるのがいちばん確実です。
ガイドラインの推奨(研究データの提示はありません)
- トイレの数「頭数+1個」
- 砂の深さ3〜5cm、掃除は1日1〜2回・本体は1〜2週間ごと
- ライナー・香りつき砂・消臭剤を避ける
専門家の合意に基づく推奨です。2014年と2025年の2つのガイドラインで一致している項目は、それだけ確度が高いと考えてよいでしょう。
専門家の経験に基づくこと(研究データはありません)
- 自動掃除トイレの音や動きを嫌う猫がいる
- トイレの縁に足を乗せるのは、砂やトイレが気に入っていないサイン
- カフェテリアで砂の深さや素材を比べる方法
これらは、獣医行動学の専門医が診療の現場で得た知見として述べているものです。数字で測った研究は見つかりませんでした。カフェテリアの手法も、研究で直接検証されたのは屋根の有無だけです。
「試してみる価値のある仮説」として扱ってください。効果がなくても、おかしなことではありません。
あえて数字を書かなかったこと
1日の排尿回数。「1日2〜4回が普通」という記述はネット上に広く見られますが、たどっていくと出どころは製品の販売サイトや解説ブログばかりでした。2025年の国際ガイドラインも回数の基準は示していません。回数を覚えるより、愛猫の平常時がどれくらいかを知っておくほうが役に立ちます。
治療費の金額。地域・病院・処置内容による差が大きく、信頼できる出典を持ちません。かかりつけの病院で目安を聞いてください。
排便時に深い砂が好まれるかどうか。この知見の出典とされていた資料の実在を確認できなかったため、数字を伴う記述はしていません。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の猫の診断・治療に代わるものではありません。記載している数値や推奨は、原則として海外の研究・ガイドラインに基づいており、日本の診療環境や入手できる製品と一致しない場合があります。愛猫の症状については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。


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