結論から書きます。
猫にとっての「香り」の危険度は、“香りの強さ”ではなく「どの成分を・どれくらいの濃度で・どんな経路で浴びたか」で決まります。
はっきり危険なのは濃縮された精油(アロマオイル)で、柔軟剤や香水の原液の誤飲・付着が次点。一方、ふつうに洗って乾いた衣類に残る“残り香”が健康な猫に害を起こすという証拠は、今のところありません。
私はもともと食品分析(ペットフードを含む)や、化学品のSDS(安全データシート)作成の仕事をしていて、何かを使う前に成分表の裏を読むのが癖です。香水も柔軟剤も使わない無香料派で、猫と香りの関係を深く考えたことはありませんでした。きっかけは友人の「柔軟剤をやめたら、うちの子の腎臓の数値が下がった」という一言。本当に関係があるのか——論文と公的資料だけを根拠に、徹底的に調べ直しました。
この記事でわかること
- 猫が香り成分に弱い「化学的な理由」(UGT1A6欠損)と、その“適用範囲”
- 香り製品に入っている成分(リモネン・リナロール等)と、猫へのリスク
- 製品別のリスク3段階(精油/柔軟剤・香水/残り香)
- 「残り香は有害か」を濃度で検証(精油原液とは少なくとも数桁の差)
- 「香料が蓄積する」は本当か(脂溶性・PBDEとの違い)
- 成分表示の見分け方、無香料製品の選び方、なめたときの対処
結論:猫と「香り」は“濃度”と“経路”で考える
同じ「香り製品」でも、わかっていることの確からしさはまったく違います。まず全体像を3段階で示します。
| 危険度 | 何が/どんな状況か | 根拠の強さ |
|---|---|---|
| 🔴 はっきり危険 | 濃縮された精油・アロマオイル(塗る・なめる・ディフューザー) | 強い(体質+症例報告) |
| 🟡 条件しだいで危険 | 柔軟剤・乾燥機シート・液体ポプリ・香水・芳香剤の原液を、なめる・かじる・被毛についたのをグルーミング | 既知のリスク(公的資料) |
| ⚪ よくわかっていない | 洗濯物の残り香・人の香水のにおいを日常の室内濃度で浴びる | 未証明(直接研究が乏しい) |
この3段階を押さえると、必要以上に不安にならず、でも押さえるべき点は外さずに済みます。以下、順に掘り下げます。
なぜ猫は「香り成分」に弱いのか——肝臓の酵素の話
カギは肝臓の解毒のしくみです。人や犬は、体に入った多くの化学物質を「グルクロン酸抱合」という反応で水に溶けやすい形に変え、尿から捨てています。この反応の主役のひとつがUGT1A6という酵素です。
ところが猫では、このUGT1A6遺伝子が「偽遺伝子(pseudogene)」になっていて機能していません(Court & Greenblatt, 2000)。獣医薬理学のレビューでも、猫の肝臓で機能するUGT1Aは2種類だけ(犬は最大10種類、ヒトは9種類)と確認されています(Court, 2013)。この欠損はネコ科全体で共有され、およそ1,100万〜3,500万年前に固定されたと推定されています(Shrestha ら, 2011)。完全肉食で植物由来のフェノール類を解毒する必要が薄かった、という「使わない機能は失われる」進化の例です。
結果として、猫はフェノール類(植物の香り成分に多い構造)の解毒がとても苦手です。精油の香り・薬効のもとになる成分にはフェノールやテルペンが多く、人ならすぐ処理できるこれらが、猫では体内に長くとどまりやすい——これが「猫は精油に弱い」と言われる体質的な裏づけです。
メカニズムと断定は別物。この酵素欠損は、猫が香り成分に弱く“なりうる理由”であって、「香りのするもの=すべて猫に害」という意味ではありません。どんな成分を・どの濃度で・どの経路で浴びたかで、話は大きく変わります。
【成分別】香り製品に入っている化学物質と猫へのリスク
「柔軟剤の香り」は単一の成分ではなく、香料化合物の寄せ集めです。製品の成分開示を見ると、リモネン・リナロール・ゲラニオール・シトロネロール・クマリン・ベンジルサリチレート・ヘキシルシンナマールなど(EUが表示を義務づける「香料アレルゲン」)が並びます。このうちリモネンやリナロールはテルペン類で、精油の主成分と“同じ化学ファミリー”です。
| 成分の種類 | 代表例 | 猫との関係 |
|---|---|---|
| テルペン類 | リモネン、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール | 精油の主成分と同系統。濃度が高ければリスク。残り香レベルは別(後述) |
| フェノール系 | 一部の香料・精油成分(オイゲノール等) | 猫が最も解毒を苦手とする構造 |
| サリチル酸系 | サリチル酸メチル(ウインターグリーン等) | アスピリンと同系統。精油原液で中毒例あり |
| 香料アレルゲン全般 | クマリン、ベンジル系など | 人では皮膚・呼吸器の感作物質。猫のアレルギーはほぼ未研究 |
「香料=精油と地続きなのでは?」という直感は、化学的には正しいのです。ただし“地続き”でも、原液と残り香では濃度が桁違い——ここが最重要の切り分けになります。界面活性剤そのものの安全性は別記事で詳説しています。参考:猫と界面活性剤|本当に危ないのはどれ?
【製品別】リスクを3段階で徹底解説
🔴 最も危険:精油・アロマディフューザー
猫と香りの話で、いちばん確かな危険がここです。Khan らの症例研究(JAVMA, 2014)では、100%濃度のティーツリーオイルに曝露した犬猫443例のうち47%が中毒、30%が中毒疑い(あわせて約77%)と分類され、症状は曝露後2〜12時間で現れ最長3日続いたと報告されています。使用量は0.1〜85mLと幅がありましたが、使用量と重症度の関係は解析されておらず、「ここまでなら安全」という量は示されていません。この研究では猫のほうが犬より重症化(昏睡・意識低下など)の割合が高く(重症は猫で12%、犬で5%)、とくに子猫や低体重の猫で重症化しやすい傾向でした。Merck獣医マニュアルも、猫は酵素欠損のため犬より精油に敏感だと説明しています。数字の読み方は別note「猫の致死量は一律に言えない」で解説しています(公開後にリンク)。
- 報告の多い精油:ティーツリー(メラルーカ)、シナモンなど
- ウインターグリーン・バーチ:サリチル酸メチルを多く含み、アスピリン中毒を起こしうる
- 主な症状:嘔吐・よだれ・ふらつき・呼吸器の異常・けいれん。重いと肝臓・腎臓の障害に及ぶことも
曝露は精油を皮膚に塗る・なめるケースが中心ですが、ディフューザーで拡散した微粒子が被毛につき、グルーミングで口に入る経路も無視できません。ヨーロッパ猫疾病諮問委員会(ABCD)の消毒ガイドラインも、酵素欠損を根拠にフェノール系(多くの精油を含む)は猫の環境で避けるべきと明記しています(Addie ら, 2015)。「ナチュラル=安全」ではありません。
🟡 柔軟剤・乾燥機シート・液体ポプリ——“におい”より“口に入れること”
ここは誤解されやすいところです。心配の本体は、香りそのものより製品を口や体につけてしまうことにあります。ASPCA(米国動物虐待防止協会)によると、多くの柔軟剤や乾燥機シートには陽イオン界面活性剤(カチオン性洗剤)が含まれ、猫がなめる・かじると口・食道・胃に化学やけどや潰瘍を起こすことがあります。特に使用前の乾燥機シートは成分が濃く要注意です。
同系統で知られるのが液体ポプリ。漏れた液が被毛につき、グルーミングで取り込んで舌の潰瘍・よだれ・食欲不振を起こした事例がASPCAから報告されています。なお陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム等)そのものについては、英国VPISの猫245頭の解析(Bates & Edwards, 2015)で流涎・舌の潰瘍・発熱などが報告されていますが、原因製品は抗菌クリーナー・消毒剤・屋外テラス洗浄剤が中心で、食器用洗剤ではありません。単一の重症例も報告されています(Rubini ら, 2024)。
ポイントは「香りが漂っていること」ではなく「原液・シート・ポプリを猫が直接口にできる状態」。保管と置き場所でほぼ防げるリスクです。
🟡 香水・コロン——エタノール+香料
香水の多くはエタノール(アルコール)と香料でできています。こぼれた液をなめる、吹きかかった布を舐めるなどでまとまった量を口にすれば、アルコールや香料による胃腸症状・ふらつきのリスクがあります。これも「口に入れる」経路の問題。猫の鼻先で直接スプレーしない、別室でつけて乾いてから猫と過ごす、で十分カバーできます。
🟡 芳香剤・消臭スプレー・お香・アロマキャンドル
「空間に香りを広げる」製品も、考え方は同じです。漂う“におい”そのものより、液(リキッド)を倒して誤飲・付着すること、精油を含むかどうか、燃焼の煙を既往のある猫が吸うか——この3点で見分けます。
- 置き型・プラグイン式の芳香剤:通常の使用で漂う香りより、倒れて中身の原液をなめる・こぼれた液が被毛につく経路に注意。精油配合タイプは🔴(精油)として扱うのが安全です。
- 布用の消臭スプレー(ファブリーズ等):「ファブリーズで猫が死ぬ」といった噂が広まったことがありますが、ASPCAの毒性専門家は、猫・犬のいる家庭で通常どおり使うぶんには安全と考えられるとしています。念のため、吹きかけた布が濡れている直後に猫がなめる・顔をうずめるのは避け、乾いてから使わせてください。
- お香・線香:燃焼で微小粒子(PM)と煙が出ます。喘息・気道疾患のある猫では発作の引き金になりうるので、猫のいる空間での使用は控えめに、使うなら換気を。
- アロマキャンドル・ワックスウォーマー・アロマストーン:精油を含むものは、加熱・常温で精油成分が拡散する=🔴精油の注意がそのまま当てはまります。倒してのやけど、溶けたロウや固形ワックスの誤飲にも注意。
いずれも「香りが漂うこと」そのものより、原液・リキッド・ロウを口にする/精油を含む/燃焼の煙を既往のある猫が吸う——が実際の注意点です。置き場所と換気、そして「精油入りかどうか」の確認で、ほとんどは避けられます。
⚪ 洗濯物の残り香・人の香水のにおい——未証明
いちばん質問が多く、いちばん断定しにくい領域です。ふつうに洗って乾かした衣類に残る香りを、日常の室内濃度で猫が吸うことの害は、猫を対象にした直接研究が乏しく、未証明です。近い領域では、家庭内のPM2.5(微小粒子)が高い家の猫で呼吸器疾患が多いという症例対照研究があり(Lin ら, 2018)、喘息のある猫では強い香りが発作の誘因になりうると獣医の管理上の助言で一貫して挙げられます。ただしこれらは粒子・エアゾール・既存喘息の話で、残り香そのものを切り出したものではありません。次章で濃度から検証します。
【徹底検証】柔軟剤の“残り香”は猫に有害?——濃度で考える
「同じ化学ファミリー」でも、精油の原液と残り香では危険度がまったく違います。どれくらい違うのかを数字で見ます。
| 段階 | 香料の割合(めやす) | ppm換算 | 何に対する割合か |
|---|---|---|---|
| 精油の原液 | ほぼ100% | 約1,000,000 ppm | 精油そのものの重量に対して(=ほぼ全部が香り成分)。100%原液への曝露で中毒報告(Khan 2014) |
| 製品(柔軟剤・洗剤) | 約0.1〜2% | 約1,000〜20,000 ppm | 製品(液)の重量に対して。濃縮タイプ・乾燥機シートで数%〜10%(=数万〜100,000 ppm) |
| 洗濯後、布に残る分 | さらにごく一部 | 信頼できる測定値なし | 乾いた布に残るのは、製品に入っていた香料のうちごく一部。ただし家庭の洗濯で実際どれだけ残るかを正確に測った信頼できるデータは見当たらない |
(換算の目安:1% = 10,000 ppm、0.1% = 1,000 ppm)
原液(ほぼ100%)→ 製品(0.1〜2%)の時点で、すでに数十〜千分の一。洗って乾いた布に残るのはさらにごく一部なので、原液と“残り香”では少なくとも数桁の差があります(布にどれだけ残るかの正確な測定値は見当たらないため、倍率の断定は避けます)。しかも、中毒例は“100%の油を直接 塗る/なめる”話。残り香はもともと微量で、猫が舐めて取り込むのは被毛についたごく一部なので、実際に口に入る量の差はさらに大きくなります。
本当に効く経路は“におい”より“付着+グルーミング”
心配すべきは“においを吸うこと”より“体に付いて舐めること”です。近年の「香りが長持ちする」柔軟剤は香料マイクロカプセル(メラミン樹脂などの殻)を使い、繊維に付着して摩擦で割れ、香りを放出する設計。カプセルは布だけでなく肌にも移ります。つまり、理屈のうえでは次の経路が考えられます。
- 猫が香り付きの洗濯物・寝具の上で寝る、体をこすりつける
- カプセルが割れて、香料が被毛に移る
- グルーミングで、ごく少量を口にする
ただし、この経路で猫が実際どれだけ取り込むか・有害かを測ったデータはなく、量はごく微量です。参考:猫が毛玉を吐くのは正常?毛球症の初期症状と治療費
とくに気をつけたい猫
- 喘息・気道疾患のある猫(有病率およそ1%):強い香りやスプレーは発作の“引き金”になりうる
- 香料化合物は人では皮膚・呼吸器の感作物質として知られる(EUが表示を義務づける理由)。猫のアレルギーはほぼ未研究
結論:健康な猫にとって、ふつうに使った柔軟剤・洗剤の“残り香”が有害だと示すデータはありません。危険が確立しているのは精油原液・製品原液・誤飲といった高濃度の場面で、残り香はそれとは桁が違う。ただし「完全に安全」とも言い切れないので、猫が長時間すごす寝具・ブランケットだけは無香料か控えめな香りに——が、過不足のないラインです。
【よくある誤解】香料は猫の体に“蓄積”する?
「猫は代謝が弱いから香料が体に蓄積する」という説明をよく見かけますが、正確ではありません。「蓄積(排泄されず溜まり続ける)」と「代謝・排泄が遅い(長くとどまる)」は別物です。
- 香料そのもの:リモネンは速やかに代謝・排泄され(代謝物の半減期は約0.7〜2.5時間、24時間以内に尿中排泄が完了。Schmidt & Göen, 2017)、リナロールも主にグルクロン酸抱合で排泄。難分解性の“溜まる”物質ではありません。
- 猫ならではの注意:リナロールやフェノール系はグルクロン酸抱合で処理されるため、猫では排泄が遅く“長くとどまりやすい”可能性はある。ただし別経路(硫酸抱合・酸化)もあり、いずれ排泄されます。
脂溶性・水溶性は“蓄積”に関係するのか
大いに関係します。体や環境での溜まりやすさはlog Kow(脂への溶けやすさ)でほぼ予測でき、脂溶性が高い×分解されにくいの掛け算で蓄積が決まります。水溶性なら尿へ排泄されて溜まりません。体は、脂溶性の異物を代謝で水溶性に変えて排泄します(その主役が抱合)。
| 物質 | 脂溶性(log Kow) | 分解のしやすさ | 蓄積 |
|---|---|---|---|
| リモネン | 約4.4(高い) | 速い(代謝物の半減期 約0.7〜2.5時間) | しない |
| リナロール | 約3(中) | 速い(主に抱合) | しない |
| PBDE(難燃剤) | 約6〜8(極めて高い) | 分解されない(持続性) | する |
リモネンは脂溶性が高いのに蓄積しません。代謝で水溶性に変えて出すから。逆に、本当に猫の体に溜まるのは難燃剤PBDEです。ソファ・カーペット・家電などに使われ、分解されにくく脂に溶けやすく、ハウスダストに移行。猫はグルーミングで大量に取り込み、血清PBDEはヒト成人の20〜100倍に達し、甲状腺機能亢進症との関連が指摘されています(Dye ら, 2007)。「猫は化学物質を溜め込む」が当てはまるのはこちらで、香料のテルペン類は別物です。
【検証】「柔軟剤をやめたら腎臓の数値が下がった」をどう読むか
この記事を書くきっかけになった話に戻ります。先に結論を言うと、「柔軟剤が猫の腎臓を悪くする」とは、今の科学では言えません。でも「無意味な話」ということでもない。丁寧に分けて考えます。
猫の慢性腎臓病(CKD)は、加齢・食事・過去の腎障害・歯周病などが絡む多因子性の病気です(IRIS ほか)。柔軟剤など家庭内の化学物質と猫の腎機能を直接結びつけた質の高い研究は、調べたかぎり見当たりません。人では重金属・大気汚染などと腎臓病の関連報告がありますが、そのまま「猫+柔軟剤」には当てはめられません。
関連(association)と因果(causation)は違う。1頭の体験(n=1)で「やめた」と「下がった」が同時に起きても、前者が原因とは限りません。腎臓の数値は水分状態や測定のばらつきでも動き、同時期に食事・通院・投薬など別の変化が重なっていた可能性もあります。
受け止め方としては——「柔軟剤は腎臓病の原因」と断じるのも、「気のせい」と切り捨てるのも、どちらも行きすぎ。不要な化学物質を減らすのは低コストで理にかなった配慮ですが、それは「予防的な心がけ」であって「腎臓病の治療」ではない。この線引きははっきりさせておきます。
猫のいる家の「香り」との付き合い方——具体策
- 精油・アロマは猫から遠ざける:猫のいる部屋でディフューザーを焚かない。精油を猫に塗らない。最優先。
- 原液・シート・ポプリは“しまう”:柔軟剤原液、乾燥機シート、液体ポプリは扉付きの場所へ。
- 香水は別室で:乾いてから猫と過ごす。鼻先で直接スプレーしない。
- こまめに換気:香り製品を使ったら窓を開ける。曝露がぐっと減る。
- 逃げ場をつくる:香りのしない静かな部屋を1つ。猫が「いやだ」を選べる環境に。
- 床にこぼしたら水拭きも:足の裏に付けば、そのまま口に入る。
無香料・低刺激への置き換え(選び方の軸)
「全部やめる」必要はありません。猫の動線にかかる部分だけ、無香料・低刺激に寄せると費用対効果が高いです。選ぶときの軸はシンプルです。
- 柔軟剤:猫の寝具には“使わない”も有力。使うなら無香料・マイクロカプセル非使用を選ぶ(下に実例)
- 洗濯洗剤:無香料・無着色・すすぎ性の良いもの。猫の寝具用に1本あると安心(下に実例)
- 空気清浄機(HEPA):喘息ぎみの猫がいる家は、微粒子対策として有効(下に実例)
- 食器:におい・傷が残りにくいステンレス・陶器に。洗剤残りが気になる人にも(下に実例)
※「天然由来」「植物性」でも猫に安全とは限りません(精油はまさに天然由来)。表示イメージではなく成分表示で判断を。
参考までに、我が家で実際に使っているのは「ファーファ フリー&(Free&)」無香料の柔軟剤です。香料・着色料・抗菌剤・シリコン無添加で、猫の寝具を洗うのに選びました。同じ無香料シリーズの洗濯洗剤もあります。
また、HEPAフィルターの空気清浄機も我が家で使っています。香り成分(ガス)そのものを取り除くものではありませんが、花粉・抜け毛・ハウスダストなどの微粒子やペット臭の対策になります。
食器は、においや傷が残りにくい陶器を我が家でも使っています(洗剤残りが気になる方にも)。
猫が香り製品をなめた・浴びたときの対応
自己判断が最も危険な場面です。まず動物病院に連絡し、指示を仰いでください。そのうえで共通する注意点を整理します。
- 無理に吐かせない:腐食性・泡状の製品では、吐物や泡が気管に入り肺炎を起こすおそれ。
- 成分表示を手元に:製品名より“成分”が決定的。容器ごと持参できるとベスト。
- 伝える情報:原液か希釈か・およその量/飲んだか体に付いたか/何時ごろか。
- 時間の目安:精油や原液は曝露から数時間で症状が出ることも。「直後は元気」でも油断しない。
専門メモ:SDS(安全データシート)という手もある。私は以前、化学品のSDS作成の仕事もしていました。SDSは危険有害性のある化学品を事業者間でやり取りするときに交付される文書で、GHS分類(腐食性・刺激性・感作性など)・応急処置・成分が整理されています。一般消費者向け製品には交付義務がないことが多いのですが、メーカーが自主的にWeb公開していたり、お客様相談室で入手できる場合も。猫が製品に触れてしまったとき、「この製品はGHSで何に分類されているか」がわかると、動物病院や中毒センターへの説明が一気に的確になります。成分表示+(あれば)SDSを手元に——が、プロの備え方です。
誤飲・中毒は状態によって入院や複数日の対症療法が必要になることも。参考:猫が食べてはいけないもの一覧 / 猫のペット保険8社を比較
よくある質問(FAQ)
Q1. 柔軟剤の香りで猫は病気になりますか?
ふつうに洗って乾いた衣類の“残り香”で健康な猫に害が出たという研究は見当たりません。危ないのは精油原液・製品原液・誤飲など高濃度の場面です。気になるなら、猫の寝具だけ無香料にするのが現実的です。
Q2. アロマディフューザーは猫のいる部屋で使っていい?
避けるのが安全です。精油は猫が最も苦手とする成分を含み、拡散した微粒子が被毛→グルーミングで口に入る経路もあります。ABCDも猫の環境でフェノール系(多くの精油)は避けるべきとしています。
Q3.「ペットにも安心」と書かれた製品なら安全?
表示だけで判断せず、成分表示を確認しましょう。「天然由来」でも、精油のように猫に不向きな成分はあります。
Q4. 香料は猫の体に蓄積しますか?
いいえ。リモネン・リナロールは代謝・排泄される成分で、溜まり続ける証拠はありません。正しくは「蓄積」ではなく「排泄が遅れて長くとどまりやすい」。本当に蓄積するのは難燃剤PBDEなど別の持続性物質です。
Q5. なめた直後は元気そう。受診しなくていい?
「元気そう」は判断材料になりません。精油や原液では数時間後に症状が出ることも。何を・どのくらい・どう浴びたかで対応が変わるので、成分表示を手元に動物病院へ相談を。
まとめ
- 猫と香りは“濃度”と“経路”で考える。危険度は香りの強さでは決まらない。
- 🔴 最も危険は濃縮された精油・アロマ。塗らない・猫のそばで焚かない。
- 🟡 柔軟剤・香水・ポプリは原液の誤飲・付着が問題。保管で防げる。
- ⚪ 残り香が健康な猫に害を起こす証拠は未証明(精油原液とは少なくとも数桁薄い)。寝具だけ無香料に。
- 「香料が蓄積する」は誤り。溜まるのはPBDEなど脂溶性×難分解性の物質。
- 迷ったら、成分表示を手元にかかりつけの獣医師へ。
全部やめる必要はありません。「どの成分か」「口に入る経路があるか」を知って、猫の動線から遠ざける。それだけで、報告されているリスクの大半は避けられます。
この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療の代わりになるものではありません。愛猫の様子に気になる点があるときは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
出典・参考資料
査読論文
- Court MH, Greenblatt DJ. Molecular genetic basis for deficient acetaminophen glucuronidation by cats: UGT1A6 is a pseudogene… Pharmacogenetics. 2000;10(4):355–369.(PMID: 10862526)
- Court MH. Feline drug metabolism and disposition… Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2013;43(5):1039–1054.(PMID: 23890237)
- Shrestha B, Reed JM, Starks PT, Kaufman GE, Court MH. Evolution of a major drug metabolizing enzyme defect in the domestic cat and other Felidae… PLoS ONE. 2011;6(3):e18046.
- Khan SA, McLean MK, Slater MR. Concentrated tea tree oil toxicosis in dogs and cats: 443 cases (2002–2012). JAVMA. 2014;244(1):95–99.(PMID: 24344857)
- Bates N, Edwards N. Benzalkonium chloride exposure in cats: a retrospective analysis of 245 cases reported to the VPIS. Veterinary Record. 2015;176(9):229.(PMID: 25217381)
- Rubini S, ら. A case of severe benzalkonium chloride intoxication in a cat. Acta Veterinaria Scandinavica. 2024;66(1):18.
- Addie DD, ら(ABCD). Disinfectant choices in veterinary practices, shelters and households. J Feline Med Surg. 2015;17(7):594–605.(PMID: 26101311)
- Lin CH, Lo PY, Wu HD, ら. Association between indoor air pollution and respiratory disease in companion dogs and cats. J Vet Intern Med. 2018;32(3):1259–1267.
- Schmidt L, Göen T. R-Limonene metabolism in humans and metabolite kinetics after oral administration. Archives of Toxicology. 2017;91(3):1175–1185.(PMID: 27325307)
- Dye JA, Venier M, Zhu L, ら. Elevated PBDE levels in pet cats: sentinels for humans? Environmental Science & Technology. 2007;41(18):6350–6356.
公的機関・業界団体・標準資料
- Merck獣医マニュアル(Merck Veterinary Manual)Toxicoses from Essential Oils in Animals
- ASPCA Animal Poison Control Center(Poisonous Household Products / Corrosive Household Products)
- Cornell Feline Health Center(Feline Asthma)
- 香料の配合量:米国特許 US6,465,420/US6,780,835(Perfume compositions)ほか(製品中の香料量の一般的範囲)
- 生物蓄積の指標(log Kow):EPA/ECHA の環境運命・蓄積性評価基準
※本記事の数値・症状は上記出典に基づきます。確認できなかった事項は記載しないか、「未証明」と明記しています。


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