猫の手作りごはんが危険な理由|論文でわかった栄養不足

猫の食事

「市販フードより、手作りのほうが体に良さそう」。そう思って猫のごはんを手作りしている方は少なくありません。でも、獣医栄養学の研究を見ていくと、この「なんとなく良さそう」という感覚には大きな落とし穴があることがわかります。

結論からお伝えします。2019年に114種類の猫用手作りレシピを検証した研究では、必要な栄養をすべて満たしていたレシピは0件でした。筆者は、専門家の設計を伴わない自己流の手作りごはんを推奨していません。

ただし、手作り食そのものが一律に禁止されているわけではありません。この記事では「なぜ危険とされるのか」を研究データから整理したうえで、それでも手作りをしたい方が守るべき条件までお伝えします。

この記事でわかること

  • 猫の手作りごはんが危険とされる根拠(114レシピを調べた研究の結果)
  • 栄養が足りなくなる4つのメカニズム(タウリン・カルシウム・ビタミンA・コリンや微量元素)
  • 市販の総合栄養食と手作り食の決定的な違い
  • 猫は体が小さいからこそ、計量の誤差が大きく響く理由
  • それでも手作りをする場合に、専門家が示している5つの条件

猫の手作りごはんは本当に危険?114種類のレシピを調べた研究

2019年に米国獣医師会誌(JAVMA)で発表されたWilsonらの研究では、書籍やインターネット上から集めた猫用手作りレシピ114種類を対象に、National Research Council(NRC)の推奨量と比較する調査が行われました。NRCとは、犬猫の必要栄養量を科学的にまとめた米国の研究機関の基準です。

結果は次の通りでした。

  • すべての推奨量を満たしていたレシピ:0件
  • 材料・調理・給与方法のいずれかで記載が不明確だったレシピ:分析できた94件のほぼすべて(93件)
  • 給与量(食べさせる量)の指示がなかったレシピ:46件
  • 栄養分析ができるだけの情報があったレシピ:94件のみ

不足の頻度が高かった栄養素は、コリン(89.7%)、鉄(76.6%)、チアミン(62.8%)、亜鉛(61.7%)、マンガン(57.4%)、ビタミンE(57.4%)、銅(45.7%)でした。カッコ内は、推奨量を下回っていたレシピの割合です。

ただし、獣医師が書いたレシピのほうが不足は少ない傾向にありました。一定の仮定を置いて分析した場合、獣医師が書いた5件のレシピは、コリンを除くすべての評価対象栄養素で推奨量を満たしていました。とはいえ、そのうち2件はタウリンが足りているかどうかを確認できませんでした。

つまり「誰が書いたレシピか」は確かに重要ですが、それでもなお全項目をクリアするのは簡単ではない、というのがこの研究が示していることです。

研究者らの結論は、手作り食を適切に設計するには栄養学の専門知識と計算ソフトの使用が必要であり、そうでなければ有害な栄養欠乏を招きかねない、というものでした。

なぜ栄養が足りなくなるの?4つのメカニズム

では、なぜ手作り食では栄養が足りなくなるのでしょうか。ここでは、不足の頻度が高い栄養素と、猫という動物の特性上とくに影響が大きい栄養素を取り上げ、その仕組みを4つに整理します。

1. タウリン不足|心臓と目に関わる最重要栄養素

猫は体内でタウリン(アミノ酸の一種)をほとんど合成できず、食事から摂る必要があります。しかもタウリンは加熱や保存によって失われやすい性質があります。

タウリンが不足すると、拡張型心筋症(心臓の筋肉が薄く伸びてしまう病気)や網膜変性(進行すると失明につながる)を引き起こすことが知られています。

1980年代には市販フードでもタウリン不足が問題となり、以降は主要メーカーでタウリンの添加が行われるようになった経緯があります。現在AAFCOは、ドライフードで0.1%(1kgあたり1000mg)以上、ウェットフードで0.2%以上を最低値としています。ウェットのほうが高いのは、加熱処理による損失を見込んでいるためです。

つまり市販フードは、加熱で失われる分をあらかじめ計算に入れて設計されています。家庭での調理でこの損失分まで見込むのは、簡単なことではありません。

2. カルシウムとリンのバランスが崩れやすい

栄養学の一般的な推奨では、猫の食事でもカルシウムとリンの比率をおよそ1〜2対1に保つのが望ましく、とくに成長期の子猫では約1対1が推奨されています(AAFCOの猫用プロファイルはカルシウム・リンそれぞれの最低量を定めていますが、両者の「比」そのものは規定していません)。しかし手作り食は肉中心になりやすく、骨やサプリメントを加えないとリン過剰・カルシウム不足に傾きがちです。

この崩れが続くと、骨がもろくなったり、成長期であれば骨格の発育に影響が出たりする可能性が指摘されています。

3. ビタミンA|猫は野菜からビタミンAを作れない

人間や犬はβカロテン(緑黄色野菜に含まれる色素)からビタミンAを作れますが、猫にはその変換能力がありません。そのため、レバーなど動物性の食材から直接摂る必要があります。

ここで難しいのが量の調整です。少なすぎれば欠乏、多すぎれば過剰による健康被害を招きます。とくにレバーは含有量が桁違いに高いため、「体に良さそうだから」と多めに使うことがそのままリスクにつながります。

4. コリンや微量元素の「見えない不足」

先ほどの研究で不足の筆頭だったコリンは、ビタミンB群に近い働きをする栄養素で、肝臓や細胞膜の健康に関わります。レバーや卵黄に多く含まれますが、日本の飼い主にはあまりなじみがなく、意識してレシピに組み込まれることは多くありません。

同じく不足しやすい鉄・亜鉛・銅・マンガンといったミネラルも、食材ごとの含有量のばらつきが大きく、調理によって失われやすいという特徴があります。

これらに共通するのは、「足りていないことが見た目ではわからない」という点です。数値として見えにくいぶん、気づかないうちに不足が進みやすい栄養素だといえます。

市販フードと手作り食は何が違う?

市販の総合栄養食は「最低限」が担保されている

AAFCO(米国飼料検査官協会)の基準では、「complete and balanced(総合栄養食)」と表示するために2つの方法が認められています。ひとつは栄養プロファイルと照合する計算方式、もうひとつは実際に動物に食べさせて健康状態を確認する給餌試験方式です。

給餌試験のほうがより信頼性が高いとされますが、どちらの方式であっても、製品ごとに栄養素の分析・検証を経てから店頭に並ぶ点は共通しています。レシピを読んで自分で計算するだけの手作り食との、根本的な違いはここにあります。

筆者自身、過去に食品分析の業務に従事し、実際にペットフードを分析してAAFCO基準を満たしているかをチェックした経験があります。「手作りは推奨しない」と述べているのは伝聞ではなく、市販フードが実測データに基づいて設計されている現場を見てきた実感に基づくものです。

参考:キャットフードの選び方|総合栄養食の表示で何が保証されるか

AAFCO基準は万能ではない、それでも重い理由

AAFCOの猫用栄養プロファイルは、専門家による小委員会が整備したもので、その土台にはNRCの長年の研究蓄積があります。以降も新しい知見が出るたびに見直されており(直近の改定は2016年版の公式出版物に反映)、一度作って終わりの基準ではありません。

ただし補足が必要です。AAFCO基準は「これさえ与えれば一生健康が保証される」という証明ではなく、「現時点の科学的知見に基づいた実用上の最低ライン」という位置づけです。

たとえば成猫維持の給餌試験は、1歳以上の健康な猫8匹以上に26週間その製品のみを与え、終了時に6匹以上が栄養の欠乏・過剰の兆候なく完了することが条件です。裏を返せば、半年間・8匹という規模であり、これが生涯にわたる完全な栄養充足を保証するわけではありません。

とはいえ、これは「AAFCO基準に意味がない」という話ではありません。むしろ「化学的根拠のある基準ですら万能ではないのだから、根拠のない自己流レシピはなおさら不確実である」ということを裏付けている、と捉えるべきでしょう。

同じ食材でも、栄養価は毎回違う

手作り食のもう一つの弱点は、食材そのものの栄養価が一定ではない点です。同じ「鶏むね肉」でも、産地・季節・個体・部位・鮮度によって、含まれるタンパク質・脂肪・ミネラルの量は変動します。

レシピ計算は、どこかの時点で測定された標準値をもとに行われます。しかし、スーパーで買ってきた食材がその標準値と同じ栄養価を持っている保証はありません。正確に把握するには使う食材を都度分析機関にかける必要がありますが、家庭で日常的に行うのは現実的ではありません。

獣医栄養学の専門家も、鶏肉から牛肉への置き換えのような単純な変更でも、同じ100gが同じ栄養価にはならず、量や油脂の調整が必要になる例を指摘しています。食材の置き換えは「1対1」では成立しないのです。

猫は体が小さいからこそ、少しの誤差が響く

見落とされがちなのが、体の大きさそのものが持つ意味です。成猫の体重はおよそ3〜5kgで、人間の成人と比べると1/10前後しかありません。

ここで大切なのは、これが単純な比例の話ではないという点です。猫の一食あたりの分量はもともと少ないため、同じグラム単位の計量ミスでも、全体に占める割合が人間の食事よりずっと大きくなります。人間なら誤差として吸収される数gが、猫では無視できない差になるのです。

さらに、栄養素ごとに「安全域(不足から過剰までの幅)」の広さは大きく異なります。カルシウムやタウリンのように幅が狭く、少しのズレがすぐ不足や過剰につながる栄養素もあれば、ビタミンAのように比較的幅が広い栄養素もあります。

ただしビタミンAが「安全だから安心」というわけではありません。猫のビタミンA過剰は主にレバーの多用によって起こります。レバーは含有量が桁違いに高いため、「安全域が広い」という前提ごと簡単に飛び越えてしまうのです。

つまり、安全域が狭い栄養素は少しの計量ミスで、安全域が広い栄養素は食材の選び方ひとつで、それぞれ違う理由から基準を外れやすい。体が小さいということは、許容できる誤差の絶対量そのものが小さいということでもあります。

猫は完全肉食動物|人間の食事の常識が通用しない

猫は「obligate carnivore(完全肉食動物)」に分類される、進化的にかなり特殊な動物です。人間や犬と比べても、栄養面での要求が大きく異なります。

すでに触れたビタミンAやタウリンのほかにも、猫だけに見られる要求がいくつもあります。たとえばアラキドン酸(動物性の脂肪に含まれる必須脂肪酸)は、犬なら植物油の成分から体内で作れますが、猫はほとんど作れません。アルギニンというアミノ酸も、猫では不足の影響が出やすいことが知られています。

また猫はタンパク質の要求量そのものが高く、犬や人間と同じ感覚で肉の量を減らすと足りなくなります。「ヘルシーに」という発想が、猫にはそのまま当てはまらないのはこのためです。

つまり「人間にとって健康的な食事の発想」は、猫にはそのまま通用しません。良かれと思って野菜やオリーブオイルを多めに使うといった工夫が、猫にとってはむしろリスクになることもあります。

関連:猫が食べてはいけないもの一覧|ユリは絶対NG・症状と対処法

怖いのは「今は元気に見える」こと

手作り食のリスクが厄介なのは、栄養の不足が急にではなく、ゆっくり進行する点です。症状が出るまでに数ヶ月から数年かかることも珍しくなく、その間は見た目には元気に過ごしていることも多いのです。

栄養欠乏との関連が知られている問題には、次のようなものがあります。

  • 心筋症(タウリン欠乏)
  • 骨の異常(カルシウム不足)
  • 免疫機能の低下
  • 皮膚のトラブル
  • 神経症状

これらは「今日の一食」の問題ではなく、積み重ねた結果として現れます。だからこそ、元気に見えている今のうちに見直しておくことに意味があります。

気になる症状がある場合は、自己判断せず、まずはかかりつけの動物病院にご相談ください。

関連:猫の健康診断はいつから?年齢別の頻度・検査内容・費用の目安

それでも手作りしたい方へ|専門家が示す5つの条件

ここまで見てきたようにリスクは小さくありませんが、手作り食そのものが一律に禁止されているわけではありません。先ほどの研究が調べたのは、あくまで「書籍やネット上で公開されているレシピ」です。専門家が個別に設計したレシピまで否定するものではない点は、押さえておく必要があります。

American Animal Hospital Association(AAHA)のガイドラインでは、手作り食を行う場合の条件が示されています。

  • 獣医栄養専門医(DACVN等)がレシピを設計すること
  • レシピを完全に遵守すること(自己判断でアレンジしない)
  • 必要なサプリメントを併用すること
  • 定期的な血液検査などの健康モニタリングを行うこと
  • レシピを毎年、獣医栄養専門医のもとで見直すこと

AAHAガイドラインが特に強調しているのが「レシピは書かれた通りに厳守すべき」という点です。とくにビタミン・ミネラル・アミノ酸のサプリメントは、指示通りに用いなければ必要な微量栄養素が満たされない可能性があります。

ガイドラインでは、飼い主が時間の経過とともに徐々にレシピを変えてしまうことはよくあると指摘されており、獣医師は診察のたびに、飼い主が指示通りに従い続けているかを確認すべきだとされています。

また、使用するサプリメント自体も時間とともに変わりうるため、手作り食のレシピは年に一度、獣医栄養専門医のもとで更新すべきだとされています。「一度設計してもらったら終わり」ではない点に注意が必要です。

食物アレルギーや慢性腎臓病、消化器疾患など、医学的な理由から手作り食が適応となるケースも実際にあります。ただしその場合も、栄養設計は専門家に委ねることが前提です。市販の療法食が使える状況であれば、まずはそちらが第一選択とされ、手作りはあくまで代替的な選択肢という位置づけです。

関連:猫の慢性腎臓病とは?初期症状・検査・新薬AIMまで解説

まとめ|大切なのは「愛情」より「設計」

2019年の調査では、検証された手作りレシピ114種類のうち、必要な栄養をすべて満たしていたものは一つもありませんでした。市販の総合栄養食が第三者機関の分析検査を経てAAFCO基準への適合を確認されているのに対し、手作り食は食材ごとの栄養のばらつきを正確に把握する手段がほぼありません。

さらに猫は体が小さく一食の量も少ないため、同じ計量ミスでも影響が大きく出やすいという事情が重なります。こうした事実を踏まえ、筆者としては自己流での手作りごはんは推奨しません。

だからといって、手作り食を全否定する必要はありません。大切なのは、栄養計算をきちんと行うこと、必要なサプリメントを併用すること、定期的な健康チェックを受けること。つまり、専門家の設計を前提とした関わり方です。

手作り食に興味がある場合は、まず動物病院や獣医栄養専門医に相談し、レシピの設計から関わってもらうことをおすすめします。愛情を注ぐ方法は、手作りだけではありません。

参考:猫のフードの選び方|同じ家の2匹で正反対になった4ステップ

よくある質問(FAQ)

Q1. たまにおやつ程度に手作りするのも危険ですか?

この記事で扱っているリスクは、主に「手作り食を主食として毎日与える」場合のものです。総合栄養食を主食としたうえで、少量を補助的に与える場合は前提が異なります。ただし、猫に与えてはいけない食材(ネギ類など)を避けることは必須です。量や頻度が気になる場合は、かかりつけの獣医師に確認すると安心です。

Q2. 市販のサプリメントを足せば栄養は足りますか?

「何がどれだけ足りていないか」がわからないまま補うのは難しく、栄養素によっては過剰摂取のリスクもあります。AAHAガイドラインでも、サプリメントは獣医栄養専門医が設計したレシピの一部として、指示通りに使うことが前提とされています。自己判断での追加はおすすめできません。

Q3. ネット上の栄養計算ソフトやアプリは使えますか?

計算はあくまで標準値をもとにした推定です。実際の食材の栄養価のばらつきや、調理過程での損失までは反映されにくいという限界があります。「理論上は満たしている」ように見えても、実際の栄養価とはズレが生じうる点を理解しておく必要があります。

Q4. 今まで手作りを続けてきました。すぐに影響が出ていますか?

栄養欠乏は進行がゆるやかで、期間や内容によって状況は大きく異なります。ここで断定することはできません。心配な場合は、これまで与えてきた内容をメモにまとめて動物病院に持参し、血液検査などを含めて相談されることをおすすめします。責めるためではなく、今の状態を知るための一歩として考えてみてください。

Q5. 手作りごはんを設計してくれる獣医師はどう探せばいいですか?

まずはかかりつけの動物病院に相談し、必要に応じて獣医栄養の専門医(DACVN等)を紹介してもらうのが現実的な流れです。栄養相談に対応している病院かどうかは、事前に電話で確認しておくとスムーズです。

参考文献・出典

  • Wilson, S.A., Villaverde, C., Fascetti, A.J., Larsen, J.A. (2019). Evaluation of the nutritional adequacy of recipes for home-prepared maintenance diets for cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 254(10), 1172-1179. doi:10.2460/javma.254.10.1172
  • Villaverde, C., Chandler, M. (2022). Commercial vs Homemade Cat Diets: What you need to know. Journal of Feline Medicine and Surgery, 24(5), 415-428. doi:10.1177/1098612X221090389
  • National Research Council (NRC). Nutrient Requirements of Dogs and Cats (2006).
  • American Animal Hospital Association (AAHA). 2021 AAHA Nutrition and Weight Management Guidelines for Dogs and Cats. J Am Anim Hosp Assoc 2021; 57:153-178. doi:10.5326/JAAHA-MS-7232
  • AAHA Trends Magazine「Homemade Pet Food Guidance: Teaching Clients to Avoid Common Pitfalls and Maintain Quality Control」(食材置き換えに関する記述の参照元)
  • Parker VJ, Gilor C, Chew DJ. Feline hyperparathyroidism: pathophysiology, diagnosis and treatment of primary and secondary disease. J Feline Med Surg. 2015;17(5):427-439. doi:10.1177/1098612X15581134(全肉食など低カルシウム・高リンの不均衡な食事による栄養性二次性上皮小体機能亢進症、成長期の子猫でのCa:P比約1:1推奨の参照元)
  • AAFCO Dog and Cat Food Nutrient Profiles / Feeding Protocols(給餌試験プロトコル、猫用栄養プロファイル、タウリン最低値の参照元。なおCa:P比はAAFCOの猫用プロファイルでは規定されていません)

※本記事は情報提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。愛猫の健康について気になる点がある場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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