猫のワクチンは毎年必要?WSAVA2024年版の頻度・種類・副反応リスクを原文で確認

猫の健康

猫のワクチンについて調べていると、「毎年必要」という意見と「WSAVAでは3年に1回」という情報が食い違っていて、どう判断すべきか戸惑いますよね。

結論から言うと、現在の国際的な考え方は「一律で毎年打つ」でも「一律で3年に1回」でもありません。その猫の暮らし方に合わせて、必要な種類を、必要な頻度だけ打つという方針に整理されています。

完全室内で1頭だけで暮らす猫と、屋外に出る猫では選択が変わります。

この記事では、WSAVA(世界小動物獣医師会)2024年版ガイドラインの原文と、根拠になった論文、さらに日本国内で承認されているワクチンの添付文書まで確認したうえで、飼い主が判断するための材料を整理します。


この記事でわかること

  • WSAVAが「3年に1回を超えない頻度」とする根拠と、その対象になる猫の条件
  • 「カリシ・ヘルペスの免疫は1年で切れる」という説明が正確ではない理由
  • 2024年版で変わった2つの点(FeLVの扱い・子猫の追加接種時期)
  • 注射部位肉腫(FISS)の発生率が資料によって100倍近く違って見える理由と、しこりの「3-2-1ルール」
  • WSAVAの推奨と日本の添付文書がどこで食い違うか

  1. 猫のワクチンは毎年必要?結論は「その猫の暮らし方で変わる」
    1. 「高リスクは年1回」には前提条件がある
    2. ガイドラインは「義務」でも「最低基準」でもない
  2. WSAVAガイドラインとは?2024年版で変わった2つの点
    1. VGGの基本方針
      1. ① 猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンが条件付きで「コア」に
      2. ② 子猫の追加接種が「26週齢以降」に一本化
  3. 猫のワクチンの種類|コアとノンコアの違い
    1. 1. コアワクチン(すべての猫に推奨)
    2. 2. 猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンの扱い
    3. 3. ノンコアワクチン(環境やリスクに応じて検討)
    4. 4. 推奨されていないワクチン
    5. 【コラム】日本国内で猫に狂犬病ワクチンは必要?
  4. ワクチンの免疫持続期間(DOI)|「1年で切れる」は誤解?
    1. パルボ(FPV)の免疫は非常に長く続く
    2. カリシ・ヘルペスは「1年で切れる」のではなく「守り方が違う」
    3. 「抗体がある=100%感染しない」ではない
  5. ワクチン前の抗体検査(抗体価測定)はどこまで使える?
  6. なぜ「毎年接種」が見直されたのか|副反応とリスク
    1. 1. 副反応の頻度と、同時接種のリスク
    2. 2. 注射部位肉腫(FISS)というまれなリスク
    3. 3. しこりに気づいたときの「3-2-1ルール」
    4. 4. 接種部位に関する国際的な推奨
  7. 副反応リスクを減らすためにできること
  8. 見落とされがちな「通院そのもののストレス」
  9. ライフステージ別の接種スケジュール
    1. 子猫(WSAVA 2024年版)
    2. 成猫
    3. シニア猫
  10. 日本の添付文書とWSAVAはどこが違うのか
  11. 日本で「年1回」が一般的な理由と、獣医師への相談のしかた
  12. 猫のワクチンに関するよくある質問(FAQ)
    1. Q1. 完全室内飼いなら、ワクチンは一切打たなくていいですか?
    2. Q2. 3年に1回にしたいと獣医師に相談してもいいですか?
    3. Q3. 接種後にぐったりしています。様子を見て大丈夫?
    4. Q4. 接種部位にしこりがあります。すぐ病院に行くべき?
    5. Q5. 何年も打っていません。今から再開できますか?
    6. Q6. 多頭飼いです。全員同じ頻度でいいですか?
  13. まとめ|「打つか打たないか」ではなく「何を、どの頻度で」
  14. 出典・参考資料
    1. 国際ガイドライン
    2. 原著論文
    3. 日本の公的資料
    4. その他

猫のワクチンは毎年必要?結論は「その猫の暮らし方で変わる」

WSAVA(世界小動物獣医師会)2024年版ガイドラインは、成猫のコアワクチン(すべての猫に推奨されるワクチン)の頻度を、猫のリスクで分けています。原文はこう書いています。

Thereafter, revaccinate ‘low risk’ cats at 3 years of age and then no more frequently than every 3 years.
(その後、低リスクの猫は3歳時に再接種し、以降は3年に1回を超えない頻度とする)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)

More frequent revaccination (up to annually) should be considered for cats at higher risk.
(より高リスクの猫には、年1回までのより頻繁な再接種を検討すべきである)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)
リスク分類WSAVAが挙げる猫の条件コアワクチンの頻度
低リスク単独飼育で、ペットホテル(catteries)を利用しない室内猫3歳時に接種し、以降は
3年に1回を超えない頻度
高リスクペットホテルを定期的に利用する猫、感染しうる他の猫と接触する猫カリシ・ヘルペスは
年1回までを検討
(パルボは3年ごと)

つまり「毎年は必要ない」というのは、単独飼いの完全室内猫という条件に当てはまる場合の話です。すべての猫に一律で当てはまるわけではありません。

「高リスクは年1回」には前提条件がある

ここは日本では見落とされやすい点です。WSAVAが「カリシ・ヘルペスだけ年1回」と言えるのは、カリシ・ヘルペスの2種混合(二価)ワクチンが手に入る国の話です。原文にはこう書かれています。

These bivalent vaccines enable veterinarians to vaccinate higher risk cats against FCV/FHV annually and against FPV triennially, or less frequently.
(これらの二価ワクチンによって、獣医師は高リスクの猫にFCV/FHVを年1回、FPVを3年に1回またはそれ以下の頻度で接種できる)

WSAVA 2024年版ガイドライン

日本で流通している猫用コアワクチンは3種混合が主流で、カリシ・ヘルペスだけを分けて打つ選択肢が現実には取りにくくなっています。「高リスクだから年1回」を日本でそのまま実行すると、パルボも毎年打つことになるという点は、獣医師と相談するときに知っておいて損はありません。

また、暴露のタイミングが読めるなら、こういう打ち方も原文に書かれています。

For example, cats that go into boarding catteries or visit other high-stress, high-risk environments should be revaccinated 1 to 2 weeks before exposure.
(例えば、ペットホテルに預けられる猫や、その他のストレスが高く感染リスクの高い環境に行く猫は、暴露の1〜2週間前に再接種すべきである)

WSAVA 2024年版ガイドライン

預ける予定が決まっているなら、直前ではなく1〜2週間前です。預け先の選び方は猫はペットホテルとシッターどっち?研究データで見る向き不向きで整理しています。

ガイドラインは「義務」でも「最低基準」でもない

Guidelines are intended to provide broad guidance for veterinarians in decision-making. They do not describe mandatory or minimum standards of care.
(ガイドラインは、獣医師の意思決定に対して幅広い指針を提供することを意図している。義務的な、あるいは最低限の医療水準を定めるものではない)

WSAVA 2024年版ガイドライン

地域の流行状況とその猫の健康状態を把握しているのは、かかりつけの獣医師です。この記事の内容は、獣医師と話すための材料であって、獣医師の判断に代わるものではありません。

WSAVAガイドラインとは?2024年版で変わった2つの点

WSAVA(World Small Animal Veterinary Association/世界小動物獣医師会)は、世界の小動物獣医師会が加盟する国際団体です。専門部会であるワクチネーションガイドライングループ(VGG)が指針をまとめており、2024年に最新版が公表されました。

VGGの基本方針

We should aim to vaccinate every dog and cat with the core vaccines. Selected non-core vaccines may be recommended after careful consideration of each pet’s lifestyle and local prevalence of vaccine-manageable diseases. Core and non-core vaccines should be stored and administered correctly, and used only as frequently as necessary to provide lifelong protection.
(すべての犬と猫にコアワクチンを接種することを目指すべきである。ノンコアワクチンは、その動物の暮らし方と、ワクチンで管理できる病気の地域での流行状況を慎重に検討したうえで推奨される。コアとノンコアのワクチンは適切に保管・接種され、生涯にわたる防御に必要な頻度だけ使われるべきである)

WSAVA 2024年版ガイドライン

「まったく打たない」でも「とにかくたくさん打つ」でもなく、必要な分だけ打つ。これが軸です。

① 猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンが条件付きで「コア」に

2016年版では、VGGはFeLVワクチンを明確にノンコアとしていました(原文:The VGG regards FeLV as a non-core vaccine.)。2024年版はこれを変更しています。

In places where FeLV is prevalent or remains of concern, FeLV vaccines should be considered core in cats less than 1 year of age and in adult cats that have outdoor access or live with other cats that have outdoor access.
(FeLVが流行している、あるいは依然として懸念される地域では、1歳未満の猫、および屋外に出る成猫や屋外に出る他の猫と同居している成猫について、FeLVワクチンはコアとみなすべきである)

WSAVA 2024年版ガイドライン

ポイントは「FeLVが流行している、あるいは懸念される地域では」という地域条件がついていることです。無条件で全世界の全猫がコア扱いになったわけではありません。

② 子猫の追加接種が「26週齢以降」に一本化

Consider revaccinating at about 6 months of age, rather than waiting until the cat is 12 to 16 months of age.
(生後12〜16か月まで待つのではなく、生後約6か月での再接種を検討する)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)

ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。この「12〜16か月」は、WSAVAの旧版の推奨ではありません。広く行われてきた「1歳前後の初回追加接種」という慣行を指しています。

WSAVA自身は、すでに2016年版の時点で26週齢を選択肢として示していました。

…bringing forward this vaccine from 52 weeks to 26 weeks of age (or indeed at any time point between 26 and 52 weeks of age; however, 26 weeks of age provides a convenient timing).
(このワクチンを52週齢から26週齢に前倒しする(あるいは26〜52週齢の任意の時点でもよいが、26週齢は都合のよいタイミングである))

WSAVA 2016年版ガイドライン

2016年版の猫用ワクチン表も「6か月齢または1歳」と両論併記でした。それが2024年版で26週齢以降に一本化された、というのが正確な整理です。回数が増えたわけではなく、タイミングの変更です。

我が家でも、先住猫(2022年生まれ)と後輩猫(2025年生まれ)で追加接種の案内された時期が違っていました。接種した日付・製品名・部位は、そのつど手元に記録しています(猫のお薬手帳は必要?カルテは3年で消える|記録の残し方)。

猫のワクチンの種類|コアとノンコアの違い

1. コアワクチン(すべての猫に推奨)

日本で「3種混合ワクチン」と呼ばれるものが該当します。完全室内飼いの猫も推奨対象です。

  • 猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス/FPV):重い下痢と白血球減少を起こす、致死率の高い感染症
  • 猫カリシウイルス感染症(FCV):口内炎やくしゃみなど「猫かぜ」の主要原因
  • 猫ヘルペスウイルス感染症(FHV-1/猫ウイルス性鼻気管炎):目や鼻に症状が出る「猫かぜ」の原因

2. 猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンの扱い

2024年版でコア扱いになるのは、FeLVが流行または懸念される地域における次の猫です。

  • 1歳未満の猫
  • 屋外に出る成猫
  • 屋外に出る猫と同居している成猫

接種スケジュールについても、2024年版は具体的に書いています。

Start as early as 8 weeks of age. A second dose to be administered 3 to 4 weeks later… Revaccinate 1 year following the last dose of the initial series. Thereafter, annually revaccinate cats at continuing high risk of exposure.
(8週齢から開始できる。2回目は3〜4週間後に接種する。初回シリーズの最終接種から1年後に再接種する。以降は、暴露の高リスクが続く猫に年1回の再接種を行う)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)

つまりFeLVはコアワクチンと違い、リスクが続くかぎり年1回です。「コア化した」という言葉だけを見て3年に1回でよいと考えると、意味が逆になります。

【FeLVワクチンの注意点】

  • 接種前にFeLV検査で陰性であることを確認します。原文も「Only FeLV-negative cats should be vaccinated.(FeLV陰性の猫にのみ接種すべきである)」と明記しています。
  • 完全室内・単独飼育で外の猫と接触がない猫は、この対象に当てはまりません。
  • 東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医内科が公開しているFeLVの解説は、ワクチンについて「いずれも100%感染を防御できる保証はない」とし、「限定された屋内で猫を飼育することが効果的である」と併記しています。ワクチンは環境対策の代わりにはなりません。

3. ノンコアワクチン(環境やリスクに応じて検討)

ノンコアは「打ってもよい」ではなく、原文の推奨条件がかなり限定的です。そのまま引用します。

  • 猫クラミジア感染症(Chlamydia felis):「Vaccination is most appropriately used as part of a control regime for animals in multi-cat environments where infections associated with clinical disease have been confirmed.(臨床症状を伴う感染が確認されている多頭飼育環境で、制御プログラムの一部として使うのが最も適切である)」
  • ボルデテラ感染症(Bordetella bronchiseptica):「Not routinely used in pet cats. Consider use in pet cats that are kept in unusually large colonies.(一般の飼い猫には日常的には使用しない。異常に大きなコロニーで飼育される猫で使用を検討する)」
  • 猫免疫不全ウイルス(FIV/猫エイズ):ノンコア

【FIV(猫エイズ)ワクチンの補足】
2024年版は「This vaccine is currently only available in Japan, Australia and New Zealand.(このワクチンは現在、日本・オーストラリア・ニュージーランドでのみ入手可能である)」としています。日本は数少ない入手可能国です。
接種すると診断に使う抗体ができるため感染診断が難しくなる、という説明を見かけますが、原文には続きがあります。「However, some in-practice diagnostic test kits can reliably discriminate between vaccinated, uninfected cats and infected cats.(ただし、一部の院内検査キットは、接種済みの未感染猫と感染猫を確実に識別できる)」
そのうえでWSAVAは「Avoiding exposure is the best way to prevent FIV infection.(暴露を避けることがFIV感染を防ぐ最善の方法である)」としています。

4. 推奨されていないワクチン

猫伝染性腹膜炎(FIP)ワクチンは、2024年版で「Not recommended(推奨しない)」に分類されています。理由も明記されています。

There is insufficient scientific evidence to justify recommending their use. The efficacy of FIP vaccines has been questioned and is considered by many to be inadequate.
(使用を推奨するに足る科学的根拠が不十分である。FIPワクチンの有効性は疑問視されており、多くの専門家によって不十分とみなされている)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)

ワクチンで予防できないFIPそのものについては、猫のFIPは治る病気に|症状・治療・費用を獣医論文で解説にまとめています。

【コラム】日本国内で猫に狂犬病ワクチンは必要?

WSAVAは「In regions where rabies is endemic, the VGG recommends that all cats should be vaccinated against rabies for the protection of both pets and humans, even if legislation does not require this for cats.(狂犬病が常在する地域では、たとえ法律が猫に義務づけていなくても、ペットとヒトの双方を守るためすべての猫に接種することを推奨する)」としています。

日本はこの「常在地域」に当たりません。厚生労働省の資料では、国内での犬の発生は1956年が最後、人の国内感染例も1956年が最後です。狂犬病予防法が制定されたのは1950年で、そこから数年で国内発生がなくなりました。

ただし「日本に狂犬病が存在しない」わけではありません。1970年(ネパールで咬傷)、2006年(フィリピンで感染した2例)、2020年(フィリピンで感染した1例)に、海外で感染して帰国後に発病した輸入例が報告されています。

そして日本で狂犬病の予防注射が義務づけられているのは犬の所有者です。そのため、国内で飼育されている猫に狂犬病ワクチンを打つことは通常ありません(海外渡航や輸出入の手続きに伴う場合を除く)。

ワクチンの免疫持続期間(DOI)|「1年で切れる」は誤解?

ワクチンの効果が続く期間を免疫持続期間(Duration of Immunity=DOI)と呼びます。抗体を測るだけでなく、実際に強毒ウイルスを接種する攻撃試験で評価されます。

パルボ(FPV)の免疫は非常に長く続く

Cats that have responded to vaccination with MLV core vaccines maintain a solid immunity (immunological memory) against FPV for many years in the absence of any repeat vaccination.
(弱毒生コアワクチンに反応した猫は、追加接種がなくても長年にわたりFPVに対する強固な免疫(免疫記憶)を維持する)

WSAVA ガイドライン

欧州の猫感染症専門家グループABCDも、FPVについては「a much longer period of persistence of antibodies than 3 years; in some animals even lifelong antibody persistence was demonstrated(3年よりはるかに長い抗体の持続。一部の個体では生涯にわたる抗体の持続さえ示された)」と書いています。

👉 パルボについて毎年の接種が必要とは考えられていません。

カリシ・ヘルペスは「1年で切れる」のではなく「守り方が違う」

「カリシとヘルペスの抗体は1年しか持たないから毎年必要」という説明を見かけますが、WSAVAが3年間隔を推奨する根拠は、まさにこの2つのウイルスについての長期試験です。

The VGG recommends triennial revaccination of low-risk cats for FHV-1 and FCV on the basis of a published study showing a minimum duration of partial, but clinically significant, immunity of 7.5 years for these core vaccines (Scott & Geissinger 1999).
(VGGは、これらのコアワクチンについて部分的ではあるが臨床的に意味のある免疫が最低7.5年持続することを示した公表研究にもとづき、低リスク猫のFHV-1・FCVに対する3年ごとの再接種を推奨する)

WSAVA ガイドライン(Scott & Geissinger 1999を引用して)

ここで大事なのは「partial(部分的)」という語です。パルボとは守り方の質が違います。

防御の性質低リスク猫の間隔
パルボ(FPV)強固な免疫記憶。発症をほぼ防ぐ3年に1回を超えない頻度
カリシ(FCV)
ヘルペス(FHV-1)
部分的な防御。感染は防ぎきれず、症状を軽くする3年に1回を超えない頻度
(高リスクは年1回まで)

WSAVAは「Immunity against FCV and FHV-1 is only partial.(FCVとFHV-1に対する免疫は部分的でしかない)」とはっきり書いています。だからこそ、ストレスの多い環境に行く高リスク猫では年1回までの追加接種が検討されます。

「抗体がある=100%感染しない」ではない

ヘルペスウイルスは一度感染すると神経組織に潜伏し、ストレスがかかったときに再活性化します。ワクチンは「感染をゼロにする」のではなく、発症と重症化を抑えるものとして評価されています。

逆方向の誤解もあります。血液検査で「抗体が検出されない」となっても、細胞性免疫や免疫記憶によって守られている場合があります。抗体の数字がそのまま防御力を表すわけではありません。

ワクチン前の抗体検査(抗体価測定)はどこまで使える?

「打つ前に抗体を測って、足りていれば打たない」という考え方があります。WSAVAはこれをウイルスごとに区別しています。

In cats, tests for anti-FPV antibodies are considered more reliable indicators of protection than tests that detect anti-FHV and anti-FCV antibodies.
(猫では、抗FPV抗体の検査は、抗FHV・抗FCV抗体を検出する検査よりも防御の指標として信頼できると考えられている)

Conversely, the presence of antibody against FHV or FCV is currently not considered to be a reliable predictor of immune protection against either of these viruses.
(逆に、FHVまたはFCVに対する抗体の存在は、現時点ではこれらのウイルスに対する免疫防御の信頼できる予測因子とはみなされていない)

WSAVA 2024年版ガイドライン

整理すると、こうなります。

  • パルボ(FPV):抗体検査は接種の判断材料として使える。ただし原文は「FHV・FCVの検査より信頼できる」という比較表現であり、「絶対的な指標」とまでは言っていません
  • カリシ・ヘルペス(FCV/FHV-1):抗体の有無で防御力を判断できません

日本で流通するコアワクチンは3種混合が主流なので、「パルボの抗体は十分だがカリシ・ヘルペスは判断できない」という状態になったとき、3種まとめて打つか打たないかの二択になりがちです。抗体検査を受ける前に、結果が出たあとの選択肢まで獣医師に確認しておくと無駄がありません。

なぜ「毎年接種」が見直されたのか|副反応とリスク

免疫が長く続くとわかったことに加えて、接種に伴う副反応への配慮が見直しのもう一方の理由です。

1. 副反応の頻度と、同時接種のリスク

Mooreら(2007年)は、米国の329の動物病院で496,189頭の猫、1,258,712回分のワクチン接種を解析しました。

  • 接種後30日以内の有害事象(VAAE):接種を受けた猫1万頭あたり51.6件
  • 主な症状:元気消失、食欲不振、発熱、接種部位の炎症
  • 1回の来院で打つワクチンが1本増えるごとに、有害事象の発生率が27.5%上昇(原文:each additional vaccine administered per office visit increased the rate of a VAAE by 27.5%)
  • リスクが最も高かったのは1歳前後の猫(生後9か月〜1歳半で1万頭あたり80.6件)
  • 去勢・避妊済みの猫は、未去勢・未避妊の猫よりリスクが高い(原文:Overall risk was greater for neutered versus sexually intact cats.)

「高齢猫ほど副反応が出やすい」というイメージとは逆で、ピークは若い時期でした。この研究で最も実用的なのは、同時接種の本数がリスクを押し上げるという点です。

2. 注射部位肉腫(FISS)というまれなリスク

猫のワクチン接種で最も深刻な有害事象が、猫注射部位肉腫(FISS)と呼ばれる悪性腫瘍です。発生すると周囲の組織に強く浸潤するため、広範囲の外科切除が必要になります。

発生率については、資料によって数字が大きく違います。ただしこれは「どの資料が正しいか」という話ではなく、分母が違うのが主な理由です。分母をそろえずに並べると、実態を100倍近く見誤ります。

出典数値分母(ここが違う)
ABCD(欧州の専門家グループ)1万頭あたり1〜4頭ワクチン接種を受けた猫(米国の研究にもとづく数値)
同・接種回数あたり1万回あたり0.3件接種回数(Gobar & Kass 2002)
Dean 2013(英国)5,000〜12,500回に1件ワクチン接種のための来院(年あたり)
同・診察あたり1万〜2万回に1件猫の診察(年あたり)
AVMA(米国獣医師会)1万〜3万回に1頭接種回数
ピュアバックスRCP添付文書1/1,000〜1/10,000程度分母の記載なし(下記参照)

日本の添付文書の数字だけが1桁〜2桁高く見えますが、これには読み方の注意があります。ピュアバックスRCPの添付文書はこう書いています。

猫において不活化ワクチン、特にアジュバント加不活化ワクチンの注射により、注射後3ヵ月〜2年の間にまれに(1/1,000〜1/10,000程度)線維肉腫等の肉腫が発生するとの報告がある。

ピュアバックスRCP 添付文書(農林水産省 動物医薬品検査所 動物用医薬品等データベース)

読み取るべき点は3つです。

  1. この数値はピュアバックスRCP自身の発生率ではありません。「不活化ワクチン、特にアジュバント加不活化ワクチン」という製剤クラス全般への注意喚起として書かれています
  2. 分母(猫あたりか、接種あたりか)が書かれていません。そのため海外の数値と直接比較できません
  3. もう一方の主要製品である猫用ビルバゲンCRPの添付文書には、線維肉腫についても発生率の数値についても記載がありません。「日本の添付文書では」と一般化はできません

いずれの資料でも、FISSは「まれ」に分類される事象です。数字の大小を比べるより、しこりに気づいたときにどう動くかを知っておくほうが実用的です。

なお、注射部位の腫瘍はワクチンに限った話ではありません。マイクロチップ挿入部位のリスクについては猫のマイクロチップ完全ガイド|義務化・費用・安全性を解説で扱っています。

3. しこりに気づいたときの「3-2-1ルール」

接種後の一時的なしこりの多くは自然に消えます。ただし2020年AAHA/AAFPガイドラインは、次のいずれかに当てはまる場合に生検を行うよう推奨しています。

Biopsy of any mass present is warranted if it (1) remains present 3 months after vaccination, (2) is larger than 2 cm in diameter, or (3) is increasing in size 1 month after vaccination.
(腫瘤が、①接種から3か月後も残っている、②直径2cmを超えている、③接種から1か月後に増大している、のいずれかに当てはまる場合、生検が正当化される)

2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines

【しこりの 3-2-1ルール】

  • 3:接種から3か月後もしこりが残っている
  • 2:しこりの直径が2cmを超えている
  • 1:接種から1か月後に大きくなっている

※1つでも当てはまれば受診の対象です。3つそろう必要はありません。

なお、AVMAは飼い主向けにもっと早い受診目安を示しています。「Contact your veterinarian if the swelling persists for more than three weeks after vaccination, or seems to be getting larger.(接種から3週間を超えて腫れが続く場合、または大きくなっているようであれば、獣医師に連絡すること)」。3-2-1ルールは生検の判断基準であって、受診をそこまで待つ基準ではありません。

ピュアバックスRCPの添付文書にも「注射部位に硬結や腫瘤が持続的に認められた場合は、獣医師の診察を受けること。」と書かれています。

4. 接種部位に関する国際的な推奨

2020年AAHA/AAFPガイドラインは、万一肉腫ができたときに切除しやすいよう、部位について次のように書いています。

Distal limb injection is recommended to facilitate amputation with 5 cm margins in two fascial planes in the case of injection-site sarcoma.
(注射部位肉腫が生じた場合に、2つの筋膜面で5cmのマージンをとった切断を行いやすくするため、四肢遠位への注射が推奨される)

Neither vaccinating in the interscapular space nor decreasing vaccine volume is recommended.
(肩甲骨間への接種も、ワクチン量を減らすことも推奨されない)

2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines

尾への接種についても記載があり、「vaccinations must be administered in the distal tail(尾の遠位部に接種しなければならない)」とされています。

日本の添付文書でも、ピュアバックスRCPに「ワクチンを同一部位へ反復注射することにより、線維肉腫等の肉腫の発生率が高まるとの報告があるので、ワクチン注射歴のある部位への注射は避けること。」と記載されています。

我が家のかかりつけ医では、接種部位をカルテに記載し、次回に同じ部位を避けてくださっています。

副反応リスクを減らすためにできること

添付文書の注意事項にもとづく、飼い主側でできる備えです。

  1. 体調が万全な日に接種する
    発熱、下痢、皮膚炎、治療中、妊娠・授乳中などの場合は、接種の可否を獣医師に判断してもらいます。
  2. 過去の副反応歴を必ず伝える
    「前回少し元気がなかった」「食欲が落ちた」といった軽い変化も、事前に伝える価値があります。
  3. 同時接種の本数を確認する
    Moore 2007では、1回の来院で打つ本数が1本増えるごとに有害事象の発生率が27.5%上昇しました。猫用ビルバゲンCRPの添付文書にも「本剤と他のワクチンとの同時接種は避けること」と記載されています(※ピュアバックスRCPの添付文書には同時接種に関する記載はありません)。
  4. 接種後しばらくは院内または近くで様子を見る
    急性のアレルギー反応・アナフィラキシー反応は接種後まもなく現れることがあります。どのくらい待つべきかは病院の方針を確認してください。
  5. 当日から数日は静かに過ごす
    激しい運動やシャンプーは避け、自宅で様子を観察します。
  6. 接種部位を記録しておく
    「いつ・何を・どこに」を残しておくと、次回に同じ部位を避けやすく、しこりに気づいたときも経過を説明できます。

すぐに動物病院へ連絡すべきサイン

  • 呼吸が苦しそう、呼吸が速い
  • 顔面が腫れる(ムーン・フェイス)、蕁麻疹
  • ぐったりして反応が鈍い、立てない
  • 嘔吐・下痢が続く

アレルギー反応(顔面腫脹、掻痒、蕁麻疹等)やアナフィラキシー反応(虚脱、血圧低下、呼吸困難、体温低下、流涎、ふるえ、痙攣等)は、添付文書にも記載のある反応です。「様子を見る」時間を長く取るべきではありません。

見落とされがちな「通院そのもののストレス」

英国のPDSAが2023年に公表した飼い主調査(PAW Report)では、猫の63%が定期的な追加接種を受けていました。受けていない飼い主が挙げた理由は次のとおりです。

  • 猫が外に出ないから:21%
  • 費用が高すぎるから:21%
  • 他の動物と接触しないから:16%
  • 動物病院に連れて行くのが大変、または猫がストレスを感じるから:14%

費用と並ぶほどではないものの、約7人に1人が「連れて行けない」ことを理由に挙げているのは無視できません。これは獣医学的な判断以前の、家庭側の課題です。

対策として現実的なのは、キャリーバッグを普段から部屋に出しておき、猫が自由に入って寝られる場所にしておくことです。当日だけ押し入れから出すと、キャリー=病院という結びつきが強くなります。

そもそも通院の機会は接種だけではありません。健康診断とまとめられるかどうかも含めて、年間の通院計画を考えると負担を減らせます(猫の健康診断はいつから?年齢別の頻度・検査内容・費用の目安)。

ライフステージ別の接種スケジュール

子猫(WSAVA 2024年版)

Start no earlier than 6 weeks of age and revaccinate every 3 to 4 weeks until 16 weeks of age.
(6週齢より早く開始せず、16週齢まで3〜4週間隔で再接種する)

WSAVA 2024年版ガイドライン Table 2(猫用ワクチン)
  • 初回:6週齢以降に開始(6週齢より早くは開始しない)
  • 継続:3〜4週間隔で16週齢まで
  • 追加:26週齢(生後約6か月)以降にもう1回
  • その後:3歳時に接種し、以降は3年に1回を超えない頻度(低リスク猫)

16週齢まで続ける理由は、母猫からの移行抗体(初乳由来の抗体)が消える時期に個体差があるためです。移行抗体が残っているとワクチンが効きません。26週齢以降の追加接種は、その無防備な時期を作らないための保険です。

成猫

  • 低リスク猫:3歳時に接種し、以降は3年に1回を超えない頻度
  • 高リスク猫:カリシ・ヘルペスについて年1回までを検討(パルボは3年ごと)。ただし日本では2種混合が手に入りにくい点は前述のとおりです
  • FeLVがコア扱いになる猫:初回シリーズの1年後に再接種し、以降はリスクが続くかぎり年1回

シニア猫

「高齢だから毎年打つべき」という国際的な決まりはありません。Moore 2007で副反応のリスクが最も高かったのは1歳前後であり、高齢だから副反応が出やすいわけでもありませんでした。

ただし、持病の有無や現在の健康状態でリスクとメリットのバランスは変わります。高齢猫ほど、かかりつけ獣医師との個別の相談が意味を持ちます。

日本の添付文書とWSAVAはどこが違うのか

ここは他の記事であまり書かれていない部分です。日本で承認されているワクチンの用法・用量は、WSAVAの推奨とそのまま一致していません。農林水産省の動物用医薬品等データベースで実際の記載を確認しました。

WSAVA 2024年版ピュアバックスRCP猫用ビルバゲンCRP
開始週齢6週齢より早くしない8週齢以上9週齢以上
初回の回数・間隔3〜4週間隔で16週齢まで3〜4週間隔で2回15〜20日間隔で2回
26週齢以降の追加推奨記載なし記載なし
その後の間隔3歳時、以降3年に1回を超えない頻度記載なし記載なし
同時接種―記載なし「他のワクチンとの同時接種は避けること」

ここから読み取れることは3つあります。

  1. 追加接種の間隔は、日本の承認内容では定められていません。添付文書が規定しているのは初回免疫の2回までです。つまり「毎年」も「3年ごと」も法令や承認内容で決まっているわけではなく、獣医師の判断に委ねられている領域です
  2. 開始週齢と回数がWSAVAと違います。WSAVAは16週齢まで3〜4週間隔で続けることを推奨していますが、日本の承認用法は2回までです。3回目以降を打つかどうかは、承認用法の外側での判断になります
  3. 製品によって注意事項が違います。「日本の添付文書では」とまとめて語れる状態ではありません。愛猫に打たれている製品名を控えておくと、調べるときに正確になります

なお、ピュアバックスRCPは「猫ウイルス性鼻気管炎は生ワクチン、猫カリシウイルスは不活化ワクチン、猫汎白血球減少症は生ワクチン」という混合製剤です。「3種混合=すべて生ワクチン」ではありません。

日本で「年1回」が一般的な理由と、獣医師への相談のしかた

日本の動物病院で年1回が案内されることが多い背景には、実務的な理由があります。

  • 国内では3種混合が主流で、パルボとカリシ・ヘルペスを分けて打つ選択肢が取りにくい
  • 年1回の健康診断とセットにすると管理しやすい
  • 間隔を空けると接種忘れが起きやすい
  • ペットホテルやトリミングの利用条件として、1年以内の接種証明を求められることがある

どれも「間違い」ではなく、それぞれ合理的な理由です。だからこそ、押し切るのではなく自分の猫の条件を整理して持っていくほうが話が早くなります。

【獣医師に伝えるとスムーズな情報】

  • 飼育環境(完全室内か、脱走歴、他の猫との接触、同居猫の外出の有無)
  • 過去の接種履歴(時期・製品名・接種部位)
  • 過去の副反応の有無と、その内容
  • 今後の予定(ペットホテルの利用、引っ越し、新しい猫を迎える予定など)

【聞いてみるとよいこと】

  • 「うちの子は低リスク・高リスクのどちらに当たりますか?」
  • 「どの製品を、どの部位に打ちますか?」
  • 「同時に何本打つ予定ですか?」
  • 「この地域でFeLVはどのくらい出ていますか?」

注射部位肉腫のような重い有害事象は、治療費も大きくなります。加入している保険が何を補償するのかを確認しておくのも、備え方のひとつです(猫のペット保険の選び方|比較で見る6つの問いと注意点)。

猫のワクチンに関するよくある質問(FAQ)

Q1. 完全室内飼いなら、ワクチンは一切打たなくていいですか?

A. WSAVAはコアワクチンを「すべての犬と猫に接種することを目指すべきもの」と位置づけており、完全室内飼いの猫も対象です。頻度を3年に1回を超えない範囲に延ばす検討はできますが、「一切打たなくてよい」とは書かれていません。パルボウイルスは環境中で長く残り、人の靴や衣類を介して持ち込まれる可能性も指摘されています。

Q2. 3年に1回にしたいと獣医師に相談してもいいですか?

A. 相談すること自体はまったく問題ありません。ただし、日本では3種混合が主流でパルボだけ間隔を空けるのが難しいこと、地域の流行状況、病院の方針など、獣医師側にも理由があります。まず「なぜ年1回を勧めているのか」を聞くところから始めると、話が噛み合いやすくなります。
そのうえで説明に納得できない、質問を受け付けてもらえないと感じるなら、病院を変えるのも選択肢です。判断の軸は猫のかかりつけ医の探し方|失敗しない7つのチェックポイントにまとめています。

Q3. 接種後にぐったりしています。様子を見て大丈夫?

A. 元気消失や軽い発熱は報告のある反応で、数日以内に治まることが多いとされています。ただし、呼吸が苦しそう・顔面が腫れる・立てないほどぐったりしている・嘔吐や下痢が続く場合は、様子を見ずに動物病院へ連絡してください。判断に迷う場合も、接種した病院に電話で相談するのが確実です。

Q4. 接種部位にしこりがあります。すぐ病院に行くべき?

A. AVMAは「接種から3週間を超えて腫れが続く場合、または大きくなっている場合」に獣医師へ連絡するよう案内しています。生検の判断基準である「3-2-1ルール」(3か月後も残る/2cmを超える/1か月後に増大している)は受診をそこまで待つ基準ではありません。気づいた時点で大きさと日付を記録し、早めに相談してください。

Q5. 何年も打っていません。今から再開できますか?

A. 再開について相談すること自体は可能です。何回必要か(1回でよいか、間隔を空けて2回か)は、猫の年齢・過去の接種歴・製品によって考え方が変わるため、診察を受けたうえで獣医師に判断してもらってください。過去の接種記録が残っていれば必ず持参しましょう。

Q6. 多頭飼いです。全員同じ頻度でいいですか?

A. 全頭が完全室内で外の猫と接触がないなら、同じ考え方で問題ありません。ただし1頭でも屋外に出る猫がいれば、同居猫全体のリスクが上がります。WSAVAがFeLVをコア扱いにする条件にも「屋外に出る他の猫と同居している成猫」が含まれています。この場合は全頭の接種プランを見直す対象になります。

まとめ|「打つか打たないか」ではなく「何を、どの頻度で」

  • WSAVA 2024年版の考え方は「その猫の暮らし方に合わせた最適化」。一律の答えは示されていません
  • 低リスク猫(単独飼育・室内・ペットホテルを使わない)は、3歳時に接種後、3年に1回を超えない頻度
  • 高リスク猫はカリシ・ヘルペスを年1回まで検討。ただし日本では2種混合が手に入りにくい
  • 2024年版の変更点はFeLVの条件付きコア化と子猫の追加接種の26週齢以降への一本化。FeLVはコア扱いでも年1回です
  • FISSの発生率は資料ごとに分母が違います。数字を比べるより「3-2-1ルール」と受診の目安を覚えておくほうが役に立ちます
  • 日本の添付文書は追加接種の間隔を定めていません。「毎年」も「3年ごと」も獣医師の判断領域です

猫のワクチンは、「毎年打つか・打たないか」の二択ではありません。「この子には何が、どのくらいの頻度で必要なのか」を、暮らし方に合わせて決めていく時代になっています。

疑問や不安があれば、この記事の内容をそのまま持って、かかりつけの獣医師に相談してみてください。


出典・参考資料

国際ガイドライン

  • Squires RA, Crawford C, Marcondes M, Whitley N. 2024 guidelines for the vaccination of dogs and cats – compiled by the Vaccination Guidelines Group (VGG) of the World Small Animal Veterinary Association (WSAVA). Journal of Small Animal Practice. 2024;65(5):277–316. doi:10.1111/jsap.13718
    WSAVA Vaccination Guidelines 公式ページ
    → この記事では、低リスク猫の3年間隔・高リスク猫の年1回・FeLVの条件付きコア化・26週齢以降の追加接種・子猫のスケジュール・抗体検査の扱い・ノンコアの推奨条件・FIP/FIV/狂犬病の位置づけの根拠として使用
  • Day MJ, Horzinek MC, Schultz RD, Squires RA. WSAVA Guidelines for the vaccination of dogs and cats. Journal of Small Animal Practice. 2016;57(1):E1–E45. doi:10.1111/jsap.2_12431
    → この記事では、2016年版ではFeLVがノンコアだったこと、追加接種が「26〜52週齢」とされていたこと、Scott & Geissinger 1999にもとづく3年間隔の根拠として使用
  • Stone AES, Brummet GO, Carozza EM, et al. 2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2020;22(9):813–830. doi:10.1177/1098612X20941784
    AAHA Feline Vaccination Guidelines
    → この記事では、生検の判断基準「3-2-1ルール」の原文、および四肢遠位・肩甲骨間・尾の遠位部という接種部位の推奨の根拠として使用
  • Hartmann K, Day MJ, Thiry E, et al. Feline injection-site sarcoma: ABCD guidelines on prevention and management. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2015;17(7):606–613. doi:10.1177/1098612X15588451 PMID:26089253
    ABCD Feline Injection-Site Sarcoma Guideline
    → この記事では、FISS発生率(接種を受けた猫1万頭あたり1〜4頭/接種1万回あたり0.3件)の根拠として使用
  • ABCD (European Advisory Board on Cat Diseases). Guideline for Vaccination and antibody testing.
    ABCD Vaccination and antibody testing
    → この記事では、FPV抗体が3年を大きく超えて持続すること、FCV・FHVでは抗体価と防御が相関しないことの根拠として使用

原著論文

  • Scott FW, Geissinger CM. Long-term immunity in cats vaccinated with an inactivated trivalent vaccine. American Journal of Veterinary Research. 1999;60(5):652–658. PMID:10328440
    → この記事では、FHV-1・FCVについて「部分的ではあるが臨床的に意味のある免疫が最低7.5年持続する」ことの根拠として使用。ただし本記事執筆時点で原著全文を入手できなかったため、WSAVAガイドラインが同論文を引用して述べた記述を根拠としています。
  • Moore GE, DeSantis-Kerr AC, Guptill LF, Glickman NW, Lewis HB, Glickman LT. Adverse events after vaccine administration in cats: 2,560 cases (2002–2005). Journal of the American Veterinary Medical Association. 2007;231(1):94–100. doi:10.2460/javma.231.1.94 PMID:17605670
    → この記事では、496,189頭・1,258,712回という規模、接種を受けた猫1万頭あたり51.6件という有害事象の発生率、同時接種が1本増えるごとに27.5%上昇すること、リスクのピークが1歳前後であること、去勢・避妊済みでリスクが高いことの根拠として使用
  • Dean RS, Pfeiffer DU, Adams VJ. The incidence of feline injection site sarcomas in the United Kingdom. BMC Veterinary Research. 2013;9:17. doi:10.1186/1746-6148-9-17 PMID:23339769 PMCID:PMC3608079
    → この記事では、英国におけるFISS発生率(年あたり、ワクチン接種の来院5,000〜12,500回に1件/猫の診察1万〜2万回に1件)の根拠として使用

日本の公的資料

  • 農林水産省 動物医薬品検査所「動物用医薬品等データベース」ピュアバックスRCP
    → この記事では、用法・用量(8週齢以上、3〜4週間隔で2回、追加接種の間隔は記載なし)、線維肉腫に関する注意喚起(1/1,000〜1/10,000程度)、同一部位への反復注射の回避、硬結・腫瘤が持続した場合の受診、製剤構成の根拠として使用
  • 農林水産省 動物医薬品検査所「動物用医薬品等データベース」猫用ビルバゲンCRP
    → この記事では、用法・用量(9週齢以上、15〜20日間隔で2回)、他のワクチンとの同時接種を避ける旨、線維肉腫や発生率の記載がないことの根拠として使用
  • 厚生労働省 狂犬病に関する情報
    → この記事では、国内での犬・人の発生が1956年を最後に途絶えていること、1970年・2006年・2020年の輸入例の根拠として使用
  • 東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医内科 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
    → この記事では、FeLVワクチンが100%の防御を保証しないこと、限定された屋内飼育が有効であることの根拠として使用

その他

  • AVMA(American Veterinary Medical Association)Vaccines and sarcomas: A concern for cat owners
    → この記事では、接種1万〜3万回に1頭というFISS発生率と、「接種から3週間を超えて腫れが続く、または大きくなる場合は獣医師に連絡」という受診目安の根拠として使用
  • PDSA. PAW Report 2023(Cats)
    → この記事では、猫の63%が定期的な追加接種を受けていること、受けていない理由の内訳(外に出ない21%/費用21%/他の動物と接触しない16%/通院が大変またはストレス14%)の根拠として使用


※本記事は獣医師による診察・診断に代わるものではありません。ワクチンの種類・頻度・接種の可否は、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。
※記載内容は2026年9月時点で確認できた情報にもとづいています。ガイドラインや製品の承認内容は改訂される場合があります。

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