発症した猫の、およそ6割が命を落とす。しかも、猫に「効く薬」はまだありません。
これは、日本国内で実際に起きている猫のマダニ感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」の現実です。
さらに、この病気は猫から人にもうつります。2025年には、SFTSに感染した猫を診察した70代の獣医師が亡くなった事例も報告されました。
「うちの子は室内飼いだから」と思っている方にこそ読んでいただきたい内容です。査読付き論文や国の公式資料をもとに、猫のSFTSを正確に整理します。
先に結論
- 猫から人にもうつる。発症した猫の体液にウイルスが含まれ、マダニに刺されなくても感染しうる。
- 致死率が高い。ヒト約27%、発症した猫は約62.5%(国のQ&Aでも約6割)。
- 猫向けの有効な治療薬はまだない。治療は対症療法が中心。進行が速いため早期受診を。
- 予防がすべて。完全室内飼いとマダニ駆除剤が基本。体調の悪い猫に接するときは目の保護も。
- 過度に恐れる必要はない。感染の大半は発症した猫との濃厚接触によるもの。屋内飼育猫からの感染は報告されていない(厚労省)。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは何か
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、SFTSウイルス(Bandavirus dabieense/旧称 Dabie bandavirus)によって引き起こされる、マダニ媒介性のウイルス感染症です。フェヌイウイルス科バンダウイルス属に分類されます。
- 初報告:ヒトでは2011年に中国で報告され、日本では2013年1月に、2012年秋に発症した患者が初めて確認されました。
- 潜伏期間:6〜14日。
- 主な症状:発熱、全身倦怠感、頭痛、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)など。重症化すると血小板減少・白血球減少、意識障害、多臓器不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血球貪食症候群などを引き起こします。
- 致死率(致命率):日本国内では約27%と報告されています(中国では約10%とする報告もあります)。
日本での主な媒介マダニはフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)と考えられており、キチマダニも吸血時にウイルスを伝播しうることが動物実験で確認されています。
患者数は「過去最多」を更新し続けている
SFTSの届出数は、近年明確に増加傾向にあります。
- 2013年の初報告以降、2020年までは毎年60〜100名程度で推移していました。
- 2021年以降は、毎年100名を超えるようになりました。
- 厚生労働省のQ&A(第8版)によると、2025年は過去最高の183名が報告されています(2025年11月2日時点)。
かつては西日本を中心とした感染症でしたが、2025年には関東や北海道でも症例が確認されており、厚生労働省は全国的に感染リスクがあると考えられるとしています。
なぜ「猫」が問題になるのか
SFTSは本来マダニが媒介する病気ですが、近年とくに注目されているのが「猫」の存在です。猫はSFTSにかかると重症化しやすく、しかも人への感染源にもなりうるためです。ここでは、その理由を2つに分けて見ていきます。
猫はSFTSに対して感受性が高く、致死率も高い
日本国内の猫のSFTSに関する代表的な論文として、松鵜あや氏(鹿児島大学)らのグループによる研究(Veterinary Microbiology, 2019)があります。この研究では、2017年9月〜2019年3月に、急性の感染徴候を示す動物の臨床検体を検査し、24頭の飼い猫をSFTSと診断。その致死率は62.5%という高い値でした。
論文では「猫はヒトと同程度にSFTSウイルスへの感受性が高いと考えられる」と述べられています。発症した猫は、急性の食欲不振・元気消失・発熱・嘔吐・黄疸・血小板減少・白血球減少などを示します。なお厚生労働省のQ&Aでも、SFTSに感染して発症した場合、ネコは約6割、イヌは約4割が死亡するとされており、猫の致死率の高さは公的資料とも整合しています。
また、松鵜氏らの研究では、感染した猫の多くが屋外に出る猫であったことも報告されています。マダニは屋外の草むらに生息するため、屋外に出る猫ほどマダニに刺されるリスクが高いと考えられます。この「屋外に出るかどうか」は、後半で述べる予防(室内飼い)の重要なカギになります。
感染した猫の体液にはウイルスが含まれる
ここが人への感染で最も重要な点です。厚生労働省のQ&A(獣医療従事者向け)は、SFTSを発症したネコやイヌの血液・唾液・便・尿を含めた体液には、感染性のあるウイルスが検出されていると明記しています。
つまり、マダニに刺されなくても、発症した猫の体液に触れる・噛まれる・引っかかれることで、人が感染しうるということです。
「猫から人へ」——実際に報告された事例
事例1:1頭の猫から獣医師2名へ(2018年、宮崎県)
米国CDCの学術誌 Emerging Infectious Diseases(2020年、山中ら)に報告された事例です。
- 2018年、日本の動物病院で、SFTSに感染した1頭の猫を処置した獣医師(44歳女性)と動物看護師(20歳女性)の2名が感染しました。
- 両名とも防護服(手袋・サージカルマスク)を着用していましたが、目は保護しておらず、猫に噛まれたり引っかかれたりはしていませんでした。またマダニにも刺されていませんでした。
- 猫・獣医師・看護師から分離されたウイルスの全ゲノム配列(S・M・Lの3分節すべて)が100%一致しており、猫から人への直接感染が強く示唆されました。
- 猫の血清中ウイルス量は極めて高く、1.5×1011コピー/mLに達していました。
この事例は、「噛まれなくても、目などの粘膜を介して感染しうる」こと、そして手袋とマスクだけの限定的な防護では不十分であることを示す重要な報告です。論文では、感染はエアロゾルや猫の血液・体液との接触によって起きた可能性が高いとされています。
事例2:たった1回の接触で獣医師へ(2022年)
Viruses 誌(2022年、宮内ら)に報告された事例です。
- 男性獣医師が、血小板減少のある猫を1回治療しました。この獣医師にはマダニに咬まれた痕はありませんでした。
- 獣医師と猫から得られたウイルスの全ゲノム配列が一致し、1回の接触で猫から獣医師へ感染した可能性が示唆されました。
- 論文は、標準予防策に加えて、目の保護を含む粘膜の防護を推奨しています。
なお、事例1・事例2の獣医療従事者は、いずれも回復しています(事例1の2名は入院・非入院でともに軽快、事例2の獣医師は発症17日目に退院)。獣医師の死亡は、次の2025年の事例が全国で初めてでした。
事例3:獣医師の死亡例(2025年、三重県)
2025年に大きく報道され、国の公式な症例報告(IASR Vol.46, 2025年8月号)にも掲載された事例です。
- 三重県在住の70代男性獣医師が、発症の約3週間前に、マダニが付着した放し飼いのネコ2頭を診察しました。この際、SFTSを想定した個人防護具(PPE)の着用など、特別な感染予防策は取っていませんでした。
- 診察したネコは、後にSFTSと検査診断されました。
- 獣医師は食欲不振に続き、意識変容・胸部圧迫感を訴えて緊急入院し、発症から数日で死亡退院となりました。皮疹や痂皮(かひ)は認められませんでした。
- 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所の解析により、患者とネコから得られたウイルスが同一系統であることが確認されました。
この事例では抗ウイルス薬ファビピラビルも投与されましたが、病勢の抑制には至りませんでした。
発症動物からの感染は「11例」に
国の資料によれば、2025年4月30日時点で、発症した動物との接触により感染したと考えられる獣医療従事者の届出例は11例にのぼります。また、これまでに報告された動物からヒトへの感染事例は、いずれも症状のある(発症した)動物からのものです。
マダニは「他人事」ではない——どこにでもいる生き物
「マダニなんて、山や田舎の話でしょう」——そう思っていないでしょうか。実は、マダニはかなり身近な生き物です。
マダニは主に森林や草地に生息しますが、厚生労働省のSFTS Q&Aは「郊外、市街地でも生息している」と明記しています。シカ・イノシシ・アライグマ・野鳥などの野生動物や、犬・猫といったペットに運ばれ、都市部の公園・河川敷・住宅地の庭先などにも生息していることがあると、複数の自治体の公式資料でも示されています。
近年は野生動物が市街地に進出していることもあり、都市部でもマダニの生息報告が増えていると指摘されています。SFTSの症例もかつては西日本に集中していましたが、2025年には関東や北海道でも患者が確認されました。
マダニの活動が活発になるのは、気温が上がる春から秋(おおむね4〜10月ごろ)ですが、地域や種によっては一年を通じて活動します。つまりマダニは、ガーデニング中や、公園でペットと過ごすときにも遭遇しうる、生活圏に潜む生き物なのです。
リスクを正しく理解する
ここまでの複数の資料・論文から、以下のように整理できます。
- 感染事例の多くは獣医療従事者(獣医師・動物看護師)で報告されています。これは、発症して重症化した猫と濃厚に接触する機会が多いためと考えられます。
- 一方で、感染源となった猫の多くは放し飼い・屋外に出る猫でした。マダニは屋外の草むらに生息するため、屋外に出る猫ほどマダニに刺されるリスクは高くなるとみられます。
そして重要な事実として、厚生労働省のSFTS Q&Aは「発症していないネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例は、これまでに報告されていない」と明記しています。感染が報告されているのは、あくまで発症した猫との濃厚な接触によるものです。
ただし、複数の獣医療機関や自治体は「人の服・靴・荷物にマダニが付着して室内に持ち込まれる可能性があるため、完全室内飼いでもリスクはゼロとは言い切れない」と注意を促しています。この点は事例報告というよりリスク管理上の指摘として理解するのが適切です。
重要な注意:「猫を飼うこと自体が危険」という話ではありません。報告されている感染の大半は、すでにSFTSを発症している猫との濃厚な接触によるものです。健康な猫との日常的なふれあいで次々に人が感染しているわけではない、という点は誤解しないようにしてください。
飼い主・接する人ができる予防策
論文や国・自治体・獣医療機関の資料に共通して挙げられている対策をまとめます。
猫のマダニ感染を防ぐ
- マダニ駆除剤(滴下薬・経口薬など)を、動物病院(かかりつけの獣医師)の指導のもとで使用する。
- 屋外(特に草むら・藪・河川敷など)への立ち入りをできるだけ避ける。可能なら室内飼育に努める。
- 外出のあとは、体表をチェックする。目の細かい櫛をかけることも効果的です。
駆除剤は市販品もありますが、猫に安全な成分かどうかの判断が必要です。犬用の一部の成分は猫に重篤な中毒を起こします。必ず動物病院で処方を受けてください。
→ 猫のかかりつけ医の探し方|失敗しない7つのチェックポイント
猫にマダニがついていたら
マダニが咬着している(しっかり食い込んでいる)場合は、無理に引き抜かないでください。口器が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させたりするおそれがあります。獣医師に除去してもらいましょう。
体調の悪い猫に接するとき
- 発熱・元気消失・食欲不振・黄疸などSFTSを疑う症状がある猫や、体調の悪い野良猫に接する際は、手袋・マスクに加え、目の保護(ゴーグルやフェイスシールド)を行う。
- 素手で触らない、抱きしめるなど接触を最小限にする。
- 血液・唾液・尿・便などの体液に直接触れない。
実際、2018年に宮崎県で行われた獣医療従事者への調査では、診療時に使い捨て手袋やマスクを着用している人は8割を超えていた一方、ゴーグルやフェイスシールドを着用していた人はわずか2割程度にとどまっていました。目の保護は、見落とされがちな重要ポイントです。
自分の体調がおかしいとき
マダニに刺された心当たりがなくても、SFTSを発症した猫と接触した後に発熱などの症状が出たら、その旨を医師に伝えたうえで医療機関を受診してください。飼い猫がSFTSと診断された場合は、そのことも必ず伝えましょう。
治療について——猫のSFTSに「効く薬」はまだない
猫のSFTS治療は、この記事のなかでも特に重要なテーマです。結論から言えば、現時点で猫のSFTSに有効な治療法(原因療法)は確立されていません。以下、一次資料をもとに詳しく整理します。
国の公式見解:「動物のSFTSに有効な治療法はない」
国立感染症研究所(現・国立健康危機管理研究機構)が獣医療従事者向けに公開している手引き「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について(2025年バージョン)」は、現時点で動物のSFTSに有効な治療法はないと明確に述べています。つまり、ウイルスそのものを叩いて治す薬が、猫向けには存在しないということです。
そのため、猫のSFTS治療は対症療法(症状をやわらげ、体を支える治療)が中心になります。具体的には、皮下輸液や静脈内点滴による体液の補正(脱水・循環の維持)、嘔吐に対する制吐剤やけいれんに対する抗けいれん薬などの対症療法、細菌の二次感染を防ぐための抗菌剤の投与などです。
注意すべき点:解熱に「NSAIDs」を使ってはいけない
同手引きには、獣医療の現場向けに重要な注意も記されています。SFTSの猫は重度の腸管内出血をともなうことがあるため、発熱に対してNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使うことは避けるべきとされています。また、グルココルチコイド製剤(ステロイド)やインターフェロン製剤の効果は不明とされています。飼い主が自己判断で解熱薬などを与えるのは危険であり、必ず獣医師の管理下で治療を受けることが大切です。
経過は速い——「おかしい」と思ったらすぐ動物病院へ
猫のSFTSは進行が速いのが特徴です。「元気がない・食欲がない・黄疸が出ている」といった異変に気づいたら、できるだけ早く動物病院を受診することが、救命の可能性を高めます。
日ごろから「その子のふだんの状態」を知っておくと、異変に早く気づけます。年1回の健康診断で数値を記録しておくことも、そのための備えになります。
→ 猫の健康診断はいつから?年齢別の頻度・検査内容・費用の目安
ヒトのファビピラビルは、なぜ猫にそのまま使えないのか
ヒトのSFTSに対しては、抗ウイルス薬ファビピラビル(アビガン)が2024年6月に適応追加の承認を取得しました。SFTSの治療薬としては世界初の承認です。ウイルスが増殖する前の早期投与が望ましいとされ、日本の医師主導臨床研究では、発症7日未満の患者を対象としたファビピラビル投与群23例のうち、致命率が17.4%(4/23)に低下したと報告されています(既報の致命率より約10%低い値)。
では、この薬を猫にも使えないのか——という疑問が当然わきます。ここは慎重な理解が必要です。
ファビピラビルがSFTSウイルスの増殖を抑えることは、試験管内(in vitro)や、特殊なマウスモデルでの研究では示されています。しかし、猫を対象にファビピラビルの有効性・安全性・適切な用量を検証した臨床研究は、本記事作成時点で確認できませんでした。動物種が違えば、効く用量も、副作用の出方も変わります。猫はもともと薬の代謝が特殊で、人や犬で安全な薬が中毒を起こすことも少なくありません。
したがって、「ヒトに承認された薬だから猫にも効くはず」と単純には言えず、猫への使用は確立された標準治療にはなっていない、というのが正確な現状です。
だからこそ「かからせない」ことがすべて
治す薬がまだない以上、猫のSFTS対策は「そもそも感染させない予防」に尽きます。マダニ駆除剤の使用と、次にご紹介する室内飼いが、現時点で猫を守る最も確実な手立てです。
いちばんの予防は「室内飼い」——SFTSの視点から
ここまで見てきた予防策のなかでも、もっとも根本的で効果が大きいのが「完全室内飼い」です。SFTSの感染の流れを思い出してください。
マダニ(草むらなどの屋外に生息)→ 猫が刺される → 猫が発症 → その体液から人へ
この連鎖の最初の一歩は、猫が屋外でマダニに刺されることです。実際、これまで「猫→人」の感染源となった猫の多くは、放し飼い・屋外に出る猫でした(三重県の死亡事例でも、感染源は放し飼いのネコ2頭でした)。
つまり、猫を屋外に出さないこと自体が、SFTSの入口をふさぐ最初にして最大の対策になります。マダニは屋外の草むら・藪・河川敷などに生息しており、家の中には通常いません。屋外に出る機会がなければ、猫がマダニに刺されるリスクは大きく下がります。
室内飼いは、SFTS以外の面でも猫を守る
室内飼いのメリットはSFTSに限りません。国の基準でも推奨されている飼い方です。
なお、完全室内飼いでも脱走のリスクはゼロではありません。万一に備えて、マイクロチップの装着と登録をしておくと安心です。
→ 猫のマイクロチップ完全ガイド|義務化・費用・安全性を解説
環境省が定める『家庭動物等の飼養及び保管に関する基準』(第5 猫の飼養及び保管に関する基準)では、猫を屋内で飼養するよう努めることが明記されています。多くの自治体条例でも同様に「屋内飼養に努める」ことが定められています。
一般社団法人ペットフード協会「令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査」によると、完全室内飼育の猫の平均寿命は16.25歳、外に出る猫は14.18歳と報告されており、室内飼いの猫のほうが長生きする傾向が示されています。
屋外に出る猫の寿命が短い背景には、交通事故、他の猫とのケンカ、そしてさまざまな感染症(マダニ・ノミの寄生を含む)にさらされることがあると指摘されています。SFTSに限らず、猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)や猫白血病ウイルス感染症(FeLV)なども、屋外での猫同士の接触で広がる病気です。
そしてSFTSに関して、国が明言している事実は、室内飼いの意義を後押しします。前述のとおり、厚生労働省のSFTS Q&Aは「屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例は、これまでに報告されていない」と明記しています。定量的に「何%減らせるか」を示した研究までは確認できませんでしたが、屋内飼育がSFTSの人への感染を防ぐうえで合理的な対策であることは、国の公式見解からも裏付けられるといえます(推測を含む整理)。
「かわいそう」ではない——室内でも猫は健康に暮らせる
「閉じ込めるのはかわいそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし環境省の普及啓発資料でも、環境を整えれば猫は屋内で健康に過ごせるとされています。上下運動ができるキャットタワー、おもちゃを使った狩り遊び、窓辺の日向ぼっこスペースなどを用意することで、室内でも猫の欲求は十分に満たせます。
なお、完全室内飼いでもマダニのリスクが完全にゼロになるわけではありません。人の服・靴・荷物にマダニが付着して室内に持ち込まれる可能性が指摘されているためです。そのため、室内飼いを基本としつつ、マダニ駆除剤の使用を併用することが、もっとも確実な守り方になります(この点は事例報告というより、複数の獣医療機関によるリスク管理上の助言です)。
室内飼いで大切なのは、広さより「縦の空間」と「隠れられる場所」です。キャットタワーや棚で高低差をつくり、周囲から見えにくい寝床を用意すれば、限られた広さでも十分に満たされた環境になります。
→ 猫を飼う前の準備リスト|必需品と優先順位・失敗しない選び方
留守番の時間が長い場合は、遊びの時間と環境づくりが特に重要になります。
→ 一人暮らしで猫は飼える?留守番の現実と失敗しない環境づくり
室内飼いは、猫だけでなく「人」も守る
ここで強調しておきたいのは、室内飼いは猫のためだけの対策ではないということです。
SFTSの連鎖は「屋外のマダニ → 猫 → 人」と進みます。猫を室内で飼えば、この連鎖の起点である「猫がマダニに刺され、発症する」段階を大きく減らせます。その結果、発症した猫と濃厚に接触して人が感染するリスクそのものが下がると考えられます。
つまり室内飼いは、猫を守り(マダニ・交通事故・他の感染症などから守り、寿命を延ばす)、人(飼い主・家族・獣医療従事者)も守る、猫と人の両方を同時に守る対策です。SFTSはヒトの致死率が約27%と高く、これまで獣医師の死亡例も報告されている感染症だからこそ、「猫を室内で飼う」というシンプルな選択が、大切な家族と自分自身の命を守ることにつながります。
まとめ
- SFTSはマダニが媒介するウイルス感染症で、ヒトでの致死率は日本国内で約27%と高い。
- 患者数は増加を続け、2025年は過去最高の183名(2025年11月2日時点、厚労省)。
- 猫はSFTSに感受性が高く、発症した猫の致死率は約62.5%(研究報告)、国のQ&Aでも約6割が死亡とされる。
- 発症した猫の体液にはウイルスが含まれ、マダニに刺されなくても、猫から人へ感染しうる。全ゲノム配列100%一致という強い証拠を伴う事例が複数報告されている。
- 2025年には獣医師の死亡例も報告された。ただし感染の大半は「発症した猫との濃厚接触」によるもので、健康な猫との日常のふれあいを過度に恐れる必要はない。
- 猫のSFTSには有効な治療法(原因療法)がまだ確立されていない。国の手引きも「動物のSFTSに有効な治療法はない」と明言し、治療は対症療法が中心。進行が速いため、異変に気づいたら早急に受診を。だからこそ「かからせない予防」が決定的に重要。
- マダニは他人事ではない。動物に運ばれて都市部の公園・河川敷・庭先にも生息しうる、生活圏に潜む身近な生き物である。
- 予防の要は、猫のマダニ対策と、体調の悪い猫に接する際の防護(特に目の保護)。
- そして最も根本的な対策が完全室内飼い。感染源となった猫の多くは屋外に出る猫であり、マダニに刺される「入口」をふさぐことがSFTS予防の第一歩になる。環境省も室内飼育を推奨し、室内飼いの猫のほうが平均寿命が長いというデータもある。
- 室内飼いは猫だけでなく人も守る。感染源となる発症猫を生みにくくすることで、人の感染リスクも下げられる。
大切な家族である猫を守ることが、そのまま自分自身と家族を守ることにつながります。猫を室内で飼い、マダニ対策を続ける——このシンプルな習慣を、どうか軽く見ないでください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 完全室内飼いの猫からSFTSがうつることはありますか?
厚生労働省のSFTS Q&Aは、「屋内のみで飼育されているネコやイヌ、発症していないネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例は、これまでに報告されていない」と明記しています。ただし、人の服・靴・荷物にマダニが付着して室内に持ち込まれる可能性が指摘されており、複数の獣医療機関は「完全室内飼いでもリスクはゼロとは言い切れない」と注意を促しています。この点は事例報告ではなく、リスク管理上の助言として理解するのが適切です。基本は室内飼い、それに加えてマダニ駆除剤の使用を併用するのが最も確実です。
Q2. 健康な猫を撫でたり、日常的にふれあうのは危険ですか?
過度に恐れる必要はありません。これまでに報告された猫から人への感染事例は、いずれもSFTSを発症した(症状のある)猫との濃厚な接触によるものです。発症していない健康な猫との日常的なふれあいで人が次々に感染しているわけではありません。ただし、動物由来感染症全般の予防の観点から、動物に触れたら必ず手を洗う、口移しでエサを与えない、といった基本的な衛生は守りましょう(厚労省Q&A)。
Q3. マダニに刺されなくても、猫から人にうつるのですか?
うつりえます。厚労省Q&Aは、SFTSを発症したネコやイヌの血液・唾液・便・尿を含めた体液には感染性のあるウイルスが検出されていると明記しています。2018年に宮崎県で報告された事例(Emerging Infectious Diseases, 2020)では、獣医師と看護師の2名がマダニに刺されず、猫に噛まれても引っかかれてもいないのに感染し、猫と両名から分離されたウイルスの全ゲノム配列が100%一致しました。両名は手袋とマスクを着用していましたが目は保護しておらず、粘膜(目など)を介した感染が示唆されています。
Q4. 猫がSFTSにかかったら、治療で治せますか?
現時点で、猫のSFTSに有効な治療法(原因療法)は確立されていません。国立感染症研究所の手引き(2025年バージョン)も「動物のSFTSに有効な治療法はない」と明言しており、治療は体液の補正や制吐剤・抗菌剤の投与などの対症療法が中心になります。進行が速いため、元気消失・食欲不振・黄疸などの異変に気づいたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。なお、発熱に対してNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を自己判断で与えるのは危険とされており、必ず獣医師の管理下で治療を受けることが大切です。
Q5. ヒト用に承認されたファビピラビル(アビガン)を猫にも使えますか?
ファビピラビルは2024年6月にヒトのSFTS治療薬として世界で初めて承認されましたが、これはあくまでヒト向けです。試験管内や特殊なマウスモデルでウイルス増殖を抑える効果は示されているものの、猫を対象に有効性・安全性・適切な用量を検証した臨床研究は、本記事作成時点で確認できませんでした。猫は薬の代謝が特殊で、人や犬で安全な薬が中毒を起こすこともあります。「ヒトに承認された薬だから猫にも効くはず」とは単純に言えず、猫への使用は確立された標準治療にはなっていない、というのが正確な現状です。
Q6. マダニは都市部にもいますか? 田舎だけの話ではないのですか?
都市部にもいます。厚労省のSFTS Q&Aは、マダニが主に森林や草地に生息するとしつつ「郊外、市街地でも生息している」と明記しています。野生動物やペットに運ばれ、都市部の公園・河川敷・住宅地の庭先などに生息していることがあると、複数の自治体資料でも示されています。SFTSの患者もかつては西日本中心でしたが、2025年には関東や北海道でも確認されており、全国的に注意が必要です。
Q7. 猫を室内だけで飼うのは「かわいそう」ではありませんか?
環境省の資料でも、環境を整えれば猫は屋内で健康に過ごせるとされており、環境省は室内飼育を推奨しています。上下運動ができるキャットタワー、おもちゃを使った狩り遊び、窓辺の日向ぼっこスペースなどで、室内でも猫の欲求は十分に満たせます。ペットフード協会の調査(2023年)では、完全室内飼育の猫の平均寿命は16.25歳、外に出る猫は14.18歳と報告されており、室内飼いのほうが長生きする傾向が示されています。室内飼いは、SFTSだけでなく交通事故やほかの感染症からも猫を守る対策です。
Q8. 猫にマダニがついていました。自分で取ってもいいですか?
咬着している(しっかり食い込んでいる)マダニを無理に引き抜くのは避けてください。口器が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させたりするおそれがあります。獣医師に除去してもらうのが安全です。日ごろから、散歩・外出のあとに体表をチェックし、目の細かい櫛をかけることも予防に役立ちます。マダニ駆除剤についても、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
Q9. 飼い猫がSFTSと診断されました。自分は何に気をつければいいですか?
体調の悪い猫に接するときは、手袋・マスクに加えて目の保護(ゴーグルやフェイスシールド)を行い、素手で触らない、体液に直接触れないようにしてください。そのうえで、もしあなた自身に発熱、消化器症状(食欲不振・嘔気・嘔吐・下痢・腹痛)、頭痛、筋肉痛などの症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診し、飼い猫がSFTSを発症したことを必ず医師に伝えてください。マダニに刺された心当たりがなくても受診の際に伝えることが大切です(厚労省Q&A)。
📚 出典・参考文献
査読付き論文
- Matsuu A, Momoi Y, Nishiguchi A, et al. “Natural severe fever with thrombocytopenia syndrome virus infection in domestic cats in Japan.” Veterinary Microbiology, 236:108346, 2019. doi:10.1016/j.vetmic.2019.06.019(2017年9月〜2019年3月に24頭の飼い猫をSFTSと診断、致死率62.5%。筆頭著者所属は鹿児島大学)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31500732/ - Yamanaka A, Kirino Y, Fujimoto S, et al. “Direct Transmission of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus from Domestic Cat to Veterinary Personnel.” Emerging Infectious Diseases, 26(12):2994-2998, 2020. doi:10.3201/eid2612.191513(2018年、宮崎県の動物病院で猫から獣医師・看護師2名へ感染。全ゲノム配列100%一致、血清中ウイルス量1.5×1011コピー/mL)
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/12/19-1513_article - Miyauchi A, Sada KE, Yamamoto H, et al. “Suspected Transmission of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus from a Cat to a Veterinarian by a Single Contact: A Case Report.” Viruses, 14(2):223, 2022. doi:10.3390/v14020223
https://doi.org/10.3390/v14020223 - (関連)Kirino Y, Ishijima K, Miura M, et al. “Seroprevalence of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus in Small-Animal Veterinarians and Nurses in the Japanese Prefecture with the Highest Case Load.” Viruses, 13(2):229, 2021.(獣医療従事者の目の保護着用率が低いことを報告)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7912989/
国・公的機関の資料
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」(第8版・令和7年11月21日作成)。患者数183名〈2025年11月2日時点〉、致命率27%、ネコ約6割・イヌ約4割が死亡、屋内飼育猫からの感染事例は報告なし、マダニは郊外・市街地にも生息、等。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html - 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2025年版」(2025年11月21日発行)。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001598839.pdf - 田中宏幸ほか「三重県内におけるネコからヒト(獣医師)への感染が疑われた重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の死亡例」IASR Vol.46 p165-167(2025年8月号)。発症動物からの感染は2025年4月30日時点で11例。
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/546/546r08.html - 国立健康危機管理研究機構「国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について」リスクアセスメント。
https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/severe-fever-with-thrombocytopenia-syndrome/20240801/index.html - 国立健康危機管理研究機構「特集 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2025年5月現在」IASR Vol.46, No.546。
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/546/546t.html
猫のSFTS治療・抗ウイルス薬に関する資料
- 国立感染症研究所(前田健ほか)「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について(2025年バージョン)」。「動物のSFTSに有効な治療法はない」、対症療法の内容、NSAIDs禁忌等を明記。
https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdf - 国立健康危機管理研究機構「SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)」IASR Vol.46, No.546。発症7日未満の患者23例で致命率17.4%、2024年6月に世界初承認。
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/546/546r04.html - Tani H, Fukuma A, Fukushi S, et al. “Efficacy of T-705 (favipiravir) in the treatment of infections with lethal severe fever with thrombocytopenia syndrome virus.” mSphere, 1(1):e00061-15, 2016.(マウスモデルでの有効性)
室内飼い・寿命に関する資料
- 環境省「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(第5 猫の飼養及び保管に関する基準)」。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2609/pdf/04.pdf - 環境省 動物愛護管理室 発行パンフレット「猫は室内で飼おう!」ほか普及啓発資料。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2711a.html - 一般社団法人ペットフード協会「令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査」。完全室内飼育16.25歳/外に出る猫14.18歳。
https://petfood.or.jp/data-chart/
マダニの生息・分布に関する資料
- 京都市「マダニについて」(都市部の公園・河川敷への生息、活動時期など)。
https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000240343.html
報道
- 名古屋テレビ「マダニが媒介”SFTS”感染のネコを治療した三重の獣医師が死亡」2025年6月13日。
https://www.nagoyatv.com/news/?id=030556
※医学的な判断・診断・治療については、必ず医療機関・動物病院にご相談ください。数値・状況は資料公表時点のものであり、最新情報は各出典元でご確認ください。


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